春昼

22話 二十二

754字 約2分 2006年8月26日 公開

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「なるほど、そう思えば、舞台の前に、木の葉がばらばらと(ちら)ばった中へ(まじ)って、投銭(なげせん)が飛んでいたらしく見えたそうでございます。

 幕が()いた――と、まあ、言う(てい)でありますが、さて(ただ)浅い、(ひらった)い、(くぼ)みだけで。何んの(かざり)つけも、道具だてもあるのではござらぬ。何か、身体(からだ)もぞくぞくして、余り見ていたくもなかったそうだが、自分を見懸けて、はじめたものを、他に誰一人いるではなし、今更(いまさら)帰るわけにもなりませんような羽目になったとか言って、懐中(かいちゅう)紙入(かみいれ)に手を懸けながら、茫乎(ぼんやり)見ていたと申します。

 また、陰気な、湿(しめ)っぽい(おん)で、コツコツと拍子木(ひょうしぎ)打違(ぶっちが)える。

 やはりそのものの手から、ずうと糸が(つな)がっていたものらしい。舞台の左右、山の腹へ斜めにかかった、一幅(ひとはば)の白い(もや)が同じく幕でございました。むらむらと両方から舞台際(ぶたいぎわ)へ引寄せられると、煙が(うずま)くように畳まれたと言います。

 不細工ながら、窓のように、箱のように、黒い横穴が小さく一ツずつ三十五十と一側並(ひとかわなら)べに仕切ってあって、その中に、ずらりと婦人(おんな)が並んでいました。

 坐ったのもあり、立ったのもあり、片膝(かたひざ)立てたじだらくな姿もある。()長襦袢(ながじゅばん)ばかりのもある。頬のあたりに血のたれているのもある。縛られているのもある、一目(ひとめ)見たが、それだけで、遠くの方は、小さくなって、(かすか)になって、(ただ)顔ばかり谷間(たにま)白百合(しろゆり)の咲いたよう。

 慄然(ぞっ)として、()げもならない(ところ)へ、またコンコンと拍子木(ひょうしぎ)が鳴る。

 すると貴下(あなた)、谷の方へ続いた、その何番目かの仕切の中から、ふらりと外へ出て、一人、小さな婦人(おんな)の姿が、音もなく歩行(ある)いて来て、やがてその舞台へ(あが)ったでございますが、其処(そこ)へ来ると、(なみ)の大きさの、しかも、すらりとした脊丈(せたけ)になって、しょんぼりした肩の処へ、こう、(おとがい)をつけて、(じっ)と客人の方を見向いた、その美しさ!

 (まさ)しく玉脇の御新姐(ごしんぞ)で。」

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