1話

3,652字 約7分 2004年2月24日 公開

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桜ばないのち一ぱいに咲くからに生命(いのち)をかけてわが(なが)めたり

さくら(ばな)咲きに咲きたり諸立(もろだ)ちの棕梠(しゆろ)春光(しゆんくわう)にかがやくかたへ

この山の樹樹(きぎ)のことごと芽ぐみたり桜のつぼみ(やや)ややにゆるむ

ひつそりと(けやき)大門(だいもん)とざしありひつそりと桜咲きてあるかも

丘の上の桜さく(いへ)の日あたりに()きむつみ()る親豚子豚

ひともとの桜の(みき)につながれし若駒(わかごま)()のうるめる(かな)

淋しげに今年(ことし)の春も咲くものか一樹(ひとき)()れしその(そば)の桜

春さればさくらさきけり花蔭(はなかげ)(よど)浮木(ふぼく)(こけ)も青めり

ひえびえと咲きたわみたる桜花(はな)のしたひえびえとせまる肉体の感じ

散りかかり散りかかれども棕梠の葉に散る桜花(はな)ふぶき(たま)るとはせず

ならび咲く桜の吹雪(ふぶき)ぽぷらあ若芽(わかめ)の枝の枝ごとにかかる

わが庭の桜日和(びより)の真昼なれ贈りこしこれのつやつや林檎(りんご)

青森の林檎の箱ゆつやつやと取り()でてつきず桜花(はな)()のもと

林檎むく幅広(はばひろ)ないふまさやけく咲き()てる桜花(はな)の影うつしたり

地震(なゐ)(くづ)れそのままなれや石崖に枝垂(しだ)れ桜は咲き枝垂れたり

しんしんと桜花(さくら)かこめる(よる)の家(とつ)としてぴあの鳴りいでにけり

しんしんと桜花(はな)ふかき奥にいつぽんの道とほりたりわれひとり()

せちに行けかし春は桜の樹下(こした)みちかなしめりともせちに行けかし

さくら花ひたすらめづる片心(かたごころ)せちに(かたき)をおもひつつあり

朝ざくら討たば()たれむその時の(ほぞ)かためけりこの朝のさくら

あだかたきうらみそねみの畜生(ちくしやう)桜花(さくら)見てありとわれに驚く

わが(はした)なにおもふらむ廚辺(くりやべ)桜花(はな)()のもとにあちらむき()てり

この朝の桜花(はな)()のもと小心の与作(よさく)のつと歩み出でたり

わが幼稚(をさな)さひたはづかしし立ち(まさ)り咲き(そろ)ひたる春花(はるはな)なれや

咲きこもる桜花(はな)ふところゆ(ひと)ひらの白刃(しろは)こぼれて夢さめにけり

わがころも夜具(やぐ)仕換(しか)へてつつましく()(いね)てけり月夜(つくよ)夜ざくら

(つの)立ちのみじかきからに牛の(つの)つのだち行けどふれずさくらに

いみじくも枝垂(しだ)るるさくら()(もと)良子(ながこ)女王(によわう)素直(なほ)きおん(まゆ)

可愛(かあ)ゆしといふわが言の(かし)こけれ桜花(さくら)見ますかわが良子ひめ

新しき家居(いへゐ)(かど)桜花(はな)咲けど()を暗み提灯(ちやうちん)つけて()でけり

桜花(はな)さける道は暗けど(いつ)しんに提灯ふりて歩みけるかも

わが持てる提灯の()はとどかずて桜はただに(やみ)に真白し

いつぽんの桜すずしく野に()てりほかにいつぽんの樹もあらぬ野に

桜ばな暗夜(やみよ)に白くぼけてあり(すみ)一色(いつしき)(やぶ)のほとりに

つぶらかにわが()()ればつぶつぶに光こまかき朝桜かも

ひんがしの()の白かべに八重(やへ)ざくら淋漓(りんり)と花のかげうつしたり

さくら咲く丘のあなたの空の果て朝やけ雲の(しゆ)(たた)へたり

わだつみの豊旗雲(とよはたぐも)のあかねいろ大和(やまと)島根(しまね)春花(はるはな)()

ひさかたの光のどけし桜ちるここの丘辺(をかべ)を過ぐる葬列(さうれつ)

ほそほそと(しづく)しだるる糸ざくら西洋婦人()れてくぐるも

糸桜ほそき(かひな)がひしひしとわが真額(まひたへ)をむちうちにけり

わが(いへ)(とほ)()にひとり美しき娘ありしといふ雨夜(あまよ)夜ざくら

真玉(まだま)なす桜花(はな)のしづくに白黒のだんだら犬がぬれて()ちたり

折々(をりをり)にしづくしたたる桜花(はな)のかげ女靴(めぐつ)のあとのとびとびに残る

ほそほそと桜花(はな)の奥より見えて来る()にまさりたる淋しき灯なし

桜花(はな)の奥なにたからかに語り来る人ありて姿なかなか見えず

糸杉(いとすぎ)のみどり燃えたりそのかたへふわふわ桜咲き(しら)むかも

桜さく丘にのぼれば(をち)かたの松ふく風の声かそかなり

この丘の桜花(さくら)のもとゆ見はるかす遠松原(とほまつばら)のほのぼのしかも

松の()に桜さきたり松の葉の黒きひまよりうす(べに)ざくら

ミケロアンゼロの憂鬱(いううつ)はわれを去らずけり桜花(さくら)陰影(かげ)は疲れてぞ見ゆれ

桜花(はな)あかりさす弥生(やよひ)こそわが部屋にそこはかとなく(よど)む憂鬱

かなしみがやがて黒める憂鬱となりて(すべ)なし桜花(はな)のしたみち

早春の風ひようひようと吹きにけりかちかちに(つぼ)む桜並木(なみき)

かちかちにつぼむ桜の樹下(こした)みちしなび蜜柑(みかん)()いて通るも

さくら咲くあかるき()には立ちにけりわが(きぬ)(しわ)にはかに(しる)

仁丹(じんたん)の広告灯が青くまた赤く(てら)せり()の桜ばな

桜花(さくらばな)軒場(のきば)に近し()にあつるかみそりの冷えのうすらさびしき

山川のどよみの音のすさまじきどよみの(そば)一本(ひともと)

桜花(はな)さけど(くりや)女房いつしんに働きてあり(かま)ひかる廚

裏庭のひよろひよろ桜てふずばの手ふき手ぬぐひ薄汚(うすよご)れたり

しんしんと家をめぐりて桜さくおぞけだちたり夜半(よは)にめざめて

けふ咲ける桜はわれに(えう)あらじひとの(うそ)をばひたに(かぞ)ふる

さかんなる桜はわれになまぬるき「許しの心」あに教ふべしや

薄月夜(うすづくよ)こよひひそかに海鳥(うみどり)がこの(をか)の花をついばみに()

この丘に桜散る()なり黒玉(ぬばたま)の海に白帆(しらほ)はなに夢むらむ

()は夜とて闇の小床(をどこ)淡星(あはぼし)と語らふものか()ざくら桜

こよひわきて桜花(はな)の上なる暗空(やみぞら)に光するどき星ひとつあり

ひとり見る山ざくらばな胃を()みてほろほろ苦き舌を(ふふ)めり

ねむたげな桜並木(なみき)一声(ひとこゑ)汽笛(きてき)の音がつつ走りけり

駅前の石炭の層にうらうらと桜花(はな)ちりかかる真昼なりけり

自動車の太輪(ふとわ)砂塵(さぢん)もうもうとたちけむりつつ道の()の桜

真白なる(くだかけ)ひとつ今朝(けさ)みれば血に()みてあり桜花(はな)()のもと

空高く桜咲けどもわがたどる一本の道は岩根(いはね)こごしき

さくらばな咲く春なれや(いつは)りもまことも来よやともに(なが)めな

()(もと)の春のあめつち豪華(がうくわ)なる桜花(さくら)の層をうちに築きたり

おのづから蔭影(かげ)こそやどれ咲き()てる桜花(さくら)の層のこのもかのもに

にほやかにさくら()かむと春陽(はるひ)のもとぬばたまの(すみ)をすり流したり

にほやかにさくら(ゑが)きておみな()(かね)もうけむとおもひ立ちたり

おみな子の金もうくるを笑はざれ日本のさくら震後の桜

日本の震後のさくらいかならむ色にさくやと待ちに待ちたり

金ほしきおみなとなりて(なが)むれど桜の色は(かわ)らざりけり

金ほしき今年の春のおのれかもいやうるはしと桜をば見つ

このわれや金とり()めの()(もと)の震後の桜花(はな)の真盛りの今日(けふ)

停電の電車のうちゆつくづくと(みやこ)桜花(はな)をながめたるかも

桜さく頃ともなればわきてわが(つか)るる日こそ数は多けれ

かろき疲れさくらさく(えん)にかりそめの(ほころ)びもわがつくろはずけり

しばたたきうちしばたたき()()めるわれや桜をまともには見ず

さくら(ばな)まぼしけれどもやはらかく春のこころに咲きとほりたり

うつらうつらわが夢むらく遠方(をちかた)の水晶山に散るさくら花

うちわたす桜の長道(ながて)はろばろとわがいのちをば放ちやりたり

()()には桜(さか)るをわが(へい)室咲(むろざ)きの薔薇(ばら)ははやもしぼめり

真黒くわれ(うごか)ざりあしたより桜花(はな)窓辺(まどべ)に散りに散れども

ひそかなる独言(ひとりごと)なれけふ聞きてあすは忘れよひともと桜

遠稲妻(とほいなづま)そらのいづこぞうちひそみこの夜桜(よざくら)のもだし(かな)しも

かきくもる大空のもとひそやかに息づきにつつこの丘の桜

かそかなる遠雷(とほいかづち)を感じつつひつそりと桜さき続きたり

なごやかに空くもりつつ咲き(さか)る桜を一日(ひとひ)うち(なご)めたり

気難(きむづ)かしきこの()主人(あるじ)むづかしき顔しつつさくら移植(うつ)させて()

歌麿(うたまろ)遊女(いうぢよ)(えり)小桜(こざくら)がわが(からかさ)にとまり来にけり

政信(まさのぶ)の遊女の(そで)に散るさくらいかなる風にかつ散りにけん

うたかたの流れの岸に広重(ひろしげ)(うつつ)桜花(はな)()き重ねたり

咲き()みて白くふやけし桜花(はな)のいろ欠伸(あくび)かみつつわが見やりたり

みちばたのさくらの太根(ふとね)玉葱(たまねぎ)(ねもごろ)いだきわがいこひたり

ほろほろと桜ちれども玉葱はむつつりとしてもの言はずけり

何がなしかなしくなれりもの言はぬ玉葱に散り散り(すべ)るさくら

ここに散る桜は白し玉葱の薄茶(うすちや)の皮ゆ青芽(あをめ)のぞけり

春浅しここの丘辺(をかべ)裸木(はだかぎ)の桜並木(なみき)(あゆ)みつつかなし

さくら木のその諸立(もろだ)ちのはだか木にこもらふ熱を感ぜざらめや

松の葉の一葉(ひとは)一葉に(こま)やけく照る()のひかり桜にも照る

若竹(わかたけ)のあさきみどりに山ざくら淡淡(あはあは)と咲きて()()てるかも

桜花(さくらばな)ちりて(くさ)れりぬかるみに黒く腐れる椿(つばき)がほとり

地を()ちて大輪(たいりん)つばき折折(をりをり)に落つるすなはち散り積むさくら

大寺(おほでら)の庭に椿は()き腐り木蓮(もくれん)の枝に散りかかる桜

ぼたん桜ここだく()てり(あま)たちが(ひも)かけ渡し白衣(びやくえ)()すかも

(うつ)として曇天(どんてん)のしたに動かざり(こずゑ)のさくら散り敷けるさくら

どんよりと曇天に一樹(ひとき)立つさくら散るとしもなく散る花のあり

一天(いつてん)(すみ)すり流し満山(まんざん)の桜のいろは気負(きお)ひたちたり

見渡せば河しも遠し河しもの瀬瀬(せぜ)にうつれる春花(はるはな)のかげ

急阪(きふはん)のいただき(くら)濛濛(もうもう)と桜のふぶき吹きとざしたり

さやさやと竹さやぐからに()でて見ればしんと桜が咲き()たるかも

(たふ)の沢のいかもの店に女唐(めたう)()ちその(むか)()桜花(はな)盛りなり

いかものを女唐買ひたりその女唐箱根の桜花(はな)の下みちを行く

わがままはやめなとぞおもへしかはあれ春さり来れば桜さきけり

桜花(はな)の山は淡墨(うすずみ)いろに暮れにけり大烏(おほがらす)一羽ひつそり帰る

大暴風(おほあらし)うすずみ色の生壁(なまかべ)にさくら許多(ここだ)くたたきつけたり

ここにして桜並木(なみき)はつきにけり遠浪(とほなみ)の音かそかにはする

桜花(はな)の山はうしろに高し見はるかす淡墨いろのたそがれの海

いそがはしく(われ)を育ててわが母や長閑(のど)に桜も見で()きませしか

十年(ととせ)まへの狂院(きやうゐん)のさくら狂人(きちがひ)のわれが見にける狂院のさくら

狂人のわれが見にける十年まへの真赤きさくら真黒きさくら

狂人(きちがひ)狂人(きちがひ)よとてはやされき桜花(さくら)()ひし人間(ひと)や笑ひし

ふたたびは見る春()けむ狂人(きちがひ)のわれに咲きけむ炎の桜

わが(つま)十年(ととせ)昔のきちがひのわが恐怖(おそれ)たる桜花(はな)あらぬ春

ねむれねむれ子よ()が母がきちがひのむかし怖れし桜花(はな)あらぬ春

人間の交友(まじわり)のはてはみな(はか)な桜見つつし行きがてぬかなし

(来よと()らせる佐藤春夫氏に厚く謝しつつ)

桜花(はな)あかり(くりや)にさせば生魚(なまざかな)(はち)に三ぼん()えひかりたり

生ざかな光りて飛べりうす(べに)の桜の肌の()みの冷たさ

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