三次実録物語

3話 三次実録物語(3)

6,102字 約12分 2022年7月1日 公開

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 一、扨、廿日昼九時前、女の声にてものもをかひ、扨、頃日女参り候事不思議也。女は扨おき、臆病なれば男にてもわれ方へは得参らずおもひ、不審ながら出候へば、十六七位の美女、浅黄小紋の帷子にくろ緒の帯せし、風呂敷包を持居り、わたくしは御屋敷の内中村平左衛門さま方より、ことづかり参りし也。嘸御淋敷御くらし被成候。是を差上可申と、右の風呂敷包を出しけるが、又跡へひかへ、わたくしは多葉粉好にて御座候間、おたばこ御呑せ被下候と申、上へあがりしが、我は煙ば子のみ申さず候へ共、随分煙草もあり候へば、のみ候へ、と丸き煙草盆に煙筒を付け、多葉粉入にたばこ入出し候へば、矢張、風呂敷包は我の前に置、多葉粉のむ/\色々の咄し、物たづね問候内、よく見れば風俗、手先、爪はづれまで、誠に是が美人と申もの。あれ程なる女、爰元におり候ものなれば聞及んと申事はあるまじ。其上、此処の者なれば、頃日の事聞及び、中/\、女、わが方へ参り候ことはあるまじ。近在のよき百姓の娘にて、一家内へ参りし者とおもわれ、夫が此辺へ参るに付、こと付おこし候とおもひ見る内、いろ/\の事尋、又は煙ば子のけむりわれにふきかけ候ても、そしらぬ顔して居申候へば、わたくしは帰りますと、右の風呂敷をのぞけ、私は使に御座候へば、此入物は御便りに遣わされ候へ、と申帰りしを、中/\はや、あれ程の美女と申は見ることなし、跡を追ひあがり口へ覗き見れば見えず、どちらへ帰り候共しれ申さず。夫より内へ帰り風呂敷包を明け見れば、大重箱へ拵へだちの牡丹餅沢山に入れ、すみへ白砂糖二勺ばかりも入あり。さゐわい、夕飯たきほしたるばかりにて何もたべ申さずに付、右の牡丹餅大かた喰ひ、夫故、夕飯は喰申さず。扨、其後二た月程過ぎ、脇善六、我が方へ参りしが、咄しいたし候内、押込の前に其時の重箱、風呂敷置候をつく/″\と見候ひしが、はやこらへかね、あの重箱と風呂しきは此方ので御座候か、と尋候故、此方のでは無之、夫に付だん/\咄しも有之候と申せば、善六、あれは大かた私方の重箱、風呂敷にて御座候。跡々月廿日、私母の親里祖父が年回御座候に付、親ざとに餅も搗候へ共、せめて牡丹餅をこしらへ、近所へもやり、親ざとへも遣し申すべしとて、親さとへ遣す分、格別砂糖もたんと入候て、程なく遣し可申おもひ候処、ぼた餅重箱とも一向なく、いろ/\尋候へ共、見へ不申不思議におもふ内、今日あなたへ参り、見候へば、扨よく似たるものゝあるものかと、段/\気を付見候ひしが、先づあなたへ御尋申みんとおもひしが、此方ので御座なきよし御申なされ、扨/\不思議なる事とて驚き入、重箱、風呂敷は後程とりに上げ申べしとて、帰りける。其夜はいつもの頃ふせり候処、蚊屋釣手四所壱度に落しが、起て釣り候へばまた落し。又釣候へ共また落候故、其儘にいたし置、寝候也。

 一、扨、廿一日夜、行燈ともし候と、其あんどへある人の顔移り、講釈をする。寝る迄声せねども、顔、手斗見へ、ゆびにて度々見台の上に本置き明候なり。

 一、扨、廿二日昼九ツ半時より、棕櫚箒宙にはづれ、座敷中を掃き廻り又転びしが、又起きあがり、はく事四五度、すみからすみまで一向ほこりもなきよふにはく、夫より夜に入寝候、後大きなる音三度聞。其響き床の下へ落つく也。

 一、扨、廿三日昼、隣の五左衛門は西江寺にて、俳徊の添削いたし候に付、見に参り、家来権八は急に用事あつて外へ居り、大門を建外より錠をおろし参りしが、扨、其留守大に内騒敷聞へ候に付、無程権八かへし相待、其事申聞せ候へば、先づ錠明戸あけんとすれど、戸明ず、内より掛金かけ栓をさし候と、わが方の楷子かり大手を越し、帰り見れば戸口かけがねをかけ、栓さし叩き入これあるに付、いろ/\と致しはづし、夫より内を見れば書物不残出し、膳椀、上下弐十人前出しならべ置、箸まで有しを、五左衛門帰らぬ内取あつめ、元のごとく片付しが天井大にふくれ、権八飛あがり脇差にて突ば、糊のよふもの付しを、われに見せ候。われよく見れば、のりにてはなく、濡しすゝの付たる也。其夜寝候へば、天井より蜂の巣数/\さがり、其穴より黄なる泡を吹。其内、我寝入也

 一、扨、廿四日昼九ツ半時頃、外より四尺位の蝶内へ入、所々飛廻りしが、夫より其蝶、五歩程なる小き蝶かづ/\になる。夫よりいつとなくうせしなり。夜に入り寝所に這入り候が、行燈、石塔となり、青き火とぼり候なり。

 一、扨、廿五日暮過、小屋へ用事あり。参らぬとて縁よりおり、ふみ石をふみ候へば、ふみ石の上に死人あり。其死人酒気にてはれ、ひさしくなるよふにて皮たゞれはげ、冷きこと天窓の頭へこたへ、飛んでおりんとせしが、死人の腹の皮と、わが足の裏の皮付て離れず。右の足にて左の足をはなせば、糊付くものをへぐよふに片足は離れしかど、両足共には一向にはなれず。其内、死人目斗生き動く。其目瞬をする音、木こり虫のぼけ/\するよふ也。また両足にてふみ、一足にとびはなさんとして見れば、死人に両足共付、死人ともに飛び、夫よりひやくなり候に、殊の外困り、いろ/\にしても、はなれ申さずに付、元のふみ石へ戻り、縁に腰掛しが、程なく眠たくなり、直に敷居を枕にして寝入。夜明て見れば何もなく候也。

 一、扨、廿六日の夜五時頃、床の下に木やりの声あつて、女の首、宙に出、其内より廻り、七八寸、長さ弐間程のずゝわたさがり、首宙にあちらこちらと飛内に、其ずゝわた我にまゐ付、ひやき事たとへがたし、首巻付、またはなれずゝわた生たるごときしはらのごと。夫かまわず、蚊屋へ入、ふせりしなり。

 一、扨、廿七日昼四ツ時過より、外の壁黄黒なり、又白く也、幕を引がごとし。九ツ時過やむ。夜に入、空に拍子木の音あつて、其音、床下へひゞく。夫より蚊屋へ這入りしが、其儘、女の声にて長き溜め息つく。其響き、床の下へおちつく。其内寝入る也。

 一、扨、廿八日暮六時より、虚無僧三人、ちうに、尺八を口にあて、音はなく候へ共、吹く形にて、われ行さきに三人づゝおりしが、其内に蚊屋を釣り、寝候へば蚊屋をたぐり内へ、ちう、わが上におる。其内に寝入るなり。

 一、扨、廿九日、朝より風吹。其風、西の方からも、東の方からも、南の方からも、きたからも、みな内へ吹込むことたへず。暮時よりは、星を内へ吹こみ、矢張、下より見るとふり太さにて所々へ吹こむことやまず。其内に、われふせるなり。

 一、扨、晦日、夜五ツ時になりても何事もなく、はや、致す事共尽き出申さずかとおもひ、少しは出候を待心におもひしが、五時半、四ツ時前とおもふ頃、大門の明く音もなかりしが、露地の戸はづれ、明くと、直に表の障子壱枚残らず明け、鴨居、すさはらひの四角四面の男、浅黄小紋の上下を着し、帯刀しながら、直に居り、扨/\、長々御家へ参り、狼藉を致し候付、其御断に仮に人間の姿となり、其訳申べしとおもひ、参り候と申。我、是こそ形あきらか也。だまし打にせんものと、次に出、脇差を引抜き後へかくし、惣体変化のものは、中より下を切らねば切、と申ことをおもひ、向へすこし居るよふに見せ、畳すりはらひに、なぐり切に切ると何もなく空に申よふ、中/\刃物ざんまいにて切らるゝ者でなし。何分刃物を納め、扨、長々狼藉をいたしたる其次第、御聞下さるべし、と申す声が、只石と石とをたゝくやうに聞へ、耳突ぬく声也。夫より我もしづまり、脇ざし奥間へやり、今出るかと表へ参り待候ひしが、真中よりすこし脇へ火燵御座候が、内には灰少しあり。たゝみすり切に、蓋いたし置候が、其ふた、本などを明るよふに、ふかりわかりと明共、其内の少しの灰、只さま沢山になり、後には其間一杯になり、向灰にて見へぬ様になり、上は天井ちかくなり、我、灰に、手ひざあたりしが、其灰ふつをつぶすごとく、ばつとけりしが、其跡、其間にはびこる青坊主の頭となり、唐子の髪ある所へ、さしわたし壱尺六七寸程のひくき疣ありしが、火燵の内に首あり。あたまじやぐいにて、蜻蛉の目なりの色なりしが、床の下より火をたき候、殊の外床の下さわがしく、やれ、たけ/\と申よふにて、段々たき候程、あたま赤くてれしが、程なくあたまこぶにへ、其内より泡にへこぼれ、その煮こぼれし、内よりみゝづ出し。只さまたくほど、蚓すさまじく這ひ出、畳を這ひ我方へ斗はいかゝる。われ至つて蚓きらひにて、一ツ見ても気あしくなる蚓なれば、はいかゝるを身へつけまじと、指の爪にて刎けれ共、数の蚓なれば、はや手の裏へ取付。夫より身がら一ぱいへ、あき間なく取付きしが、致しかたなく手をこまぬき、歯を喰しめてこたへし内、其あたま二ツの目玉とじしめん間、いちばい有りしが、直に元のごとくきへ候へば、はじめに出たる男、やはり上下にて帯刀いたし、最初居申す所に見へしが、扨々、驚き入たる事にて候。我は日本へは出雲大社へ御願申、御赦し蒙り、三年跡日本へ渡りしが、三千世界の魔王なり。外にわれに劣らぬもの又あり。どちらも魔王なれば、どれを上へ付け、どれを下へ付くことも相ならず。よつて人間は、万物の王なれば、其人間の内、中に別して気じやうなるもの出生いたし候を、十六歳になる年、通力を以ていろ/\に変化、しやう気うしなわせ候へ。其人数、百人残らず正気うしなわせ候て、我を上へ付申べく候、と堅く約束に候。われは仮名山本太郎左衛門と申す。若、われ同様の魔王は、仮名信野悪太郎と申。扨、人十六歳なる人を相待、たぶらかし候と申は、十六七なる者は、格別分別もなきものなれば、前後のかんがへもなきもの也。人、魂のよくなるも十六、又あしく成るも十六、鬼も十六と申。夫故、十六なる人を悪らかす。われに、たぶらかせと申候へども、扨、今迄は唐、天竺、日本は此度で弐度渡り、百人の内八十五人、かくべつに力入ず、おもふ様にたぶらかし、正気うしなわせ候ひしが、扨、御自分さまへは、我秘術を尽し候へども、中/\相叶ひ申さず。驚き入たるに、ことに御人に出合われ、大願相叶申さず、悪太郎が下に付く事、扨/\口惜しきこと也と、我を白眼み、歯ぎりをかみしこと、いまにわすれずがたき也。扨、向ふを見れば、我がかたより五寸程高き人、冠を著、直垂を着し、笏を手に持、太郎左衛門申こと、大かた受答せしが、われ能くねじ向き見れば見えず。影の如くして、ちう見へたり。扨、初めて日本へ渡りしは、源平両家のおりなり。かへす/″\も悪太郎が下へ付候事、扨、口惜しき也、と申。又、歯がみぎり/\とかむ。若、悪太郎、自分の通力を持、また御自分さまをたぶらかし見んとおもひ、千に一ツ参る間敷くも知れず。中/\居り候共、我より上の仕形はなし。而も、いか様の知恵めぐらしても、驚き給ふ事なき人なれば、われも秘術をつくし候へ共、此方に致すこと、莵角、それ程に見へこたえず。此上は、今一両日も居候へば、誠に我通力をうしない、御自分さま御手にかゝる故、長々の狼藉いたし御断申、今晩限りに帰り候也。併、万一、右の悪太郎参り候へば、此槌を以て、西南の間の椽を、おもふ儘、御たゝき候へば、即座にわれ出、御自分様の御威勢をかり候へば、直に悪太郎通力を失なひ申べくこと、疑ひなし。其外、御自分様、一生懸命のこと御座候て、右のとふりに椽を御打候へば、其難遁れ給ふに疑ひなしと、何処から出し候とも見えず、ふり廻し、併、このよし五十年過ざる内は、必ず人に見せ申こと相ならず。御自分様壱人、親類迚も見せること、五十年過ざる内は御無用。尤、其内、他人の至極懇意の人へ、よく他言なきよふにかため、百日過候て御咄し置候へ。御暇申候程に、御見届可被下と申立候に付、直に参り候処、彼方から少しかゞみ候故われもかゞむ。其儘あたま押しが、岩を置きたるよふに一向に頭あがらず。其内に、はや鐘なるよふの音聞へ、又大勢かける音致し候に付、いろ/\といたし、のらんとする内、五体の汗ながれ出し候ことしばらく、其内、ひざま付し足をやう/\向ふへ出し、頭おれ候とおもひ、のり候へば、其廻り、小屋の屋根の上、四角なる頭長き頭の大きなるけだ物、人間の歩行く如きもの、宙に足を運び、腰のまわりにぼろの様なるもの少し纏ひ、長き色/\なるものを持たるもあり。其けだもの獣物数しれず。其内より大なる駕籠を出し、椽の上へ置、直に太郎左衛門乗りしが、駕籠の内より髭あしふみ出し、われ鼻さきへ出し、壱間半斗の足の甲と見へしが、即座、其大足駕籠の内へ納る。直に舁あげ、ちうにあるき、釣燈のよふなるもの火も先に見へ、宙に西南の間へまわり、燈籠を見るやうに雲の内へ入なり。夫より自然、夢にてはなきかとおもひ、椽へつめにてきづを付、障子はあけ、其儘置、直に蚊屋の内へ入りしが、程なく夜も明候へば、椽に爪のあと付候も聢と見へ、障子も明けこれある也。太郎左衛門居申処に、右の槌のこし置候へば、まづ人に見られてはとおもひ、渋紙、きれに包み、小屋のすみへよく埋置也。全く、われきじようにあらず。法華経日本の仏神の御かげなり。有がたし/\。

 稲生武大夫

 右直書は

 弘化元申辰年、自昌山、国前寺へ納之

 槌之次第覚

 一、寛延二己巳年七月晦日、夜七ツ時より六ツ時迄之内、請伝。

 一、同八月三日、小屋之角へ、箱へ入、埋め置。五拾年過さる内、堅く人に咄し見せぬ事。其内、至極懇意之他人壱人に能堅め、他言無之やう、百日過候上咄し置事。

 一、宝暦三酉年四月四日、山門御手伝御用に付、彼地に被遣候に付、掘て包からめ、葛籠の底へ入持参る。

 一、同年霜月十四日、三次へ帰着。中山源大夫方へ同居に付、厚き箱に入、西之方、菜園なき明地へ埋メ置。

 一、同戌の二月十一日、川田茂左衛門方へ同居に付、やはり箱に入、北之方、小米左五右衛門方之垣根へ深く掘り埋メ置。

 一、同寅の八年、極月十四日、三次より御城下引越に付、袷に包み能くからめ、人足に道具と一緒に持せ、可部迄参り、下り船に而、一本木高橋左衛門方へ参り、無程、同所藤田屋平次方借家へかり受参る。当分渋紙に包み、床の下へ埋置。

 一、同卯の九年二月廿五日、六丁目拝領地家作出来に付、引移り、北之方、仏間の下へ深く掘、箱に入れ、瓶に納め、厚板に而蓋をし、土厚くかけ置。

 一、安永八亥年十二月十三日、類焼に付、失念之、下可部屋伝七裏座敷借請参り、同十四日、六丁目焼跡へ参り、槌斗、掘出し取帰り、油紙に包、南之方、築山の岩下たへ掘埋メ置。

 一、同九年戌四月廿三日、六丁目、家作出来に付引移り、同廿五日、北之方、れんじの下た、したじの箱、瓶に入蓋ヲし、厚土ヲかけ納置。

 一、享和元年酉の七月十七日、白得沖の秀八郎御貸家の相対願通計、取出。同廿七日引越に付、十九日、掘り候処、前方大水瓶の口破れ、水、底に溜り、箱、腐割、やう/\箱引出し、板之角披き、莚打かけ置、本物斗取帰る。当分床の下箱へ入、埋メ置。同七月廿三日之夜、やぶれ箱、瓶之蓋取帰り、一緒に床の下へ入置。

 一、同二年六月八日、国前寺に預置。右に付、御上乍恐御武運長久、国土安全。連中之方角、家内武運長久、子孫繁栄。御祈祷相頼。

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