藪の中

1話 檢非違使に問はれたる木樵りの物語

565字 約1分 2012年3月25日 公開

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 さやうでございます。あの死骸(しがい)()つけたのは、わたしに(ちが)ひございません。わたしは今朝(けさ)何時(いつ)もの(とほ)り、裏山(うらやま)(すぎ)()りに(まゐ)りました。すると山陰(やまかげ)(やぶ)(なか)に、あの死骸(しがい)があつたのでございます。あつた(ところ)でございますか? それは山科(やましな)驛路(えきろ)からは、四五(ちやう)(ほど)(へだ)たつて()りませう。(たけ)(なか)()(すぎ)(まじ)つた、人氣(ひとけ)のない(ところ)でございます。

 死骸(しがい)(はなだ)水干(すゐかん)に、都風(みやこふう)のさび烏帽子(ゑばうし)をかぶつた(まま)仰向(あをむ)けに(たふ)れて()りました。(なに)しろ一刀(ひとかたな)とは(まを)すものの、(むな)もとの()(きず)でございますから、死骸(しがい)のまはりの(たけ)落葉(おちば)は、蘇芳(すはう)()みたやうでございます。いえ、()はもう(なが)れては()りません。傷口(きずぐち)(かわ)いて()つたやうでございます。おまけに其處(そこ)には、馬蠅(うまばへ)が一(ぴき)、わたしの足音(あしおと)(きこ)えないやうに、べつたり()ひついて()りましたつけ。

 太刀(たち)(なに)かは()えなかつたか? いえ、(なに)もございません。(ただ)その(そば)(すぎ)()がたに、(なは)一筋(ひとすぢ)()ちて()りました。それから、――さうさう、(なは)(ほか)にも(くし)(ひと)つございました。死骸(しがい)のまはりにあつたものは、この(ふた)つぎりでございます。が、(くさ)(たけ)落葉(おちば)は、一(めん)()(あら)されて()りましたから、きつとあの(をとこ)(ころ)される(まへ)に、餘程(よほど)手痛(ていた)(はたら)きでも(いた)したのに(ちが)ひございません。(なに)(うま)はゐなかつたか? あそこは一(たい)(うま)なぞには、はひれない(ところ)でございます。(なに)しろ(うま)(かよ)(みち)とは、(やぶ)(ひと)(へだ)たつて()りますから。

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