2話 檢非違使に問はれたる旅法師の物語
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あの死骸の男には、確かに昨日遇つて居ります。昨日の、――さあ、午頃でございませう。場所は關山から山科へ、參らうと云ふ途中でございます。あの男は馬に乘つた女と一しよに、關山の方へ歩いて參りました。女は牟子を垂れて居りましたから、顏はわたしにはわかりません。見えたのは唯萩重ねらしい、衣の色ばかりでございます。馬は月毛の、――確か法師髮の馬のやうでございました。丈でございますか? 丈は四寸もございましたか? ――何しろ沙門の事でございますから、その邊ははつきり存じません。男は、――いえ、太刀も帶びて居れば、弓矢も携へて居りました。殊に黒い塗り箙へ、二十あまり征矢をさしたのは、唯今でもはつきり覺えて居ります。
あの男がかやうになろうとは、夢にも思はずに居りましたが、まことに人間の命なぞは、如露亦如電に違ひございません。やれやれ、何とも申しやうのない、氣の毒な事を致しました。