おばけの正体

109話 おばけの正体 第一〇九項 狸の腹鼓

483字 約1分 2016年6月5日 公開

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 世に(たぬき)腹鼓(はらつづみ)と伝うる怪談があるも、深更になると遠方の物音が手近く聞こゆるから、山寺の木魚の音などを誤って狸の腹鼓とすることが多い。少し古い話なれども、山形県庄内にて起こった出来事を紹介しよう。ある年の秋、天気快晴の夜三時ごろより五時ごろまで、トントンと響く音が聞こえ、あるいは遠くなり、あるいは近くなりする。人はみなこれを狸の腹鼓であると申していた。しかるに、町内に住するものにて磯釣りに行かんと思い、午前二時に起き、支度して門を出ずれば、風評のごとく東南の方にて、はるかにトントンの声が聞こゆ。これなん狸の腹鼓である、その正体を見届けんものと思い、その方角をたどって静かに歩み行くに、行けば行くほど遠くなる。だんだん近づいて見れば、鍛冶屋(かじや)(ふいご)の音であった。毎朝二時半ごろより吹きはじめ、五時ごろになれば人々みな起きて、世間の物音が騒がしくなるためにその音が聞こえぬ。遠くなり近くなるのは、その日の風の都合によるのである。また、快晴の夜に限るのは他にあらず、天気のあしきときには、雨風の音に紛れて聞こえぬのである。この一例についても、狸の腹鼓の原因が知れると思う。

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