117話 おばけの正体 第一一七項 婦人を狐と誤る
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茨城県水戸市外に、狐が住んでいると伝えられたる森林がある。ある人、他に招かれ、その帰路御馳走を携え、この林の中を通過せるに、後ろより婦人が声をかけて「旦那様」と呼ぶを聞き、いちずに狐なりと思い込み、所持の肴を後ろの方へ投げ、足を早めて行くに、また後ろより「旦那様」と呼びながら追いかけて来る。当人さらに肴を投じ、かくすること数回、ほとんど所持せる御馳走を投げ尽くせしころ、ようやく人家ある所に着いた。ここにてふりかえって見れば、その呼びかけたる婦人は狐にあらずして近所に住める婦人にて、よく懇意にしているものであった。婦人の方では、ひとり森林の中を通行するは気味悪しと思うところへ、幸いに懇意の旦那が歩いて行かるるのを見て、これに付き従えば安心と考え追いかけたりしに、旦那の方にては狐が婦人にばけて邪魔をするのとのみ思い込み、御馳走を与えたならば彼満足するであろうと考え、投げながら足を早め、追いつかれぬようにしたのである。これも後日の笑話。