118話 おばけの正体 第一一八項 老僕、頭巾にだまさる
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余が郷里にて人家を離れた所に、一帯の森林がある。古来その中に老狐住すと伝え、その傍らを通過せるもの往々誑惑せられて、家に帰らざることがある。一日、ある老僕、隣村に使いして帰路、この森林の傍らを通過せしとき、日いまだ暮れざるに忽然として四面暗黒となり、目前咫尺を弁ぜずして、一歩も進むことあたわず。よって自ら思えらく、これ全く老狐の所為なり。しかず、老狐に謝してそのゆるしを得んにはと考え、地に座して三拝九拝するも、依然として暗夜のごとくである。老僕、当惑してなさんところを知らぬ。すでにして一人その道に来たり会するありて、はるかに一老体の地に座して頓首再拝するを見て大いに怪しみ、近づきてこれを検するに、頭巾前に垂れて両眼を隠している。よってその頭巾を取り去れば、老僕驚きて不審にたえざるありさまなれば、これにその次第をたずねしに、老狐のために誑惑せられしと信じたりと答えた。しかしてその実、老狐の所為にあらずして、自らこれをおそるるのあまり、頭巾の前に垂れて両眼をおおうに至れるを知らざるのであった。ここにおいて、両人大いに笑って相別れたりとの話。世に狐惑談多き中には、かくのごときの類もすくなくなかろうと思う。