おばけの正体

120話 おばけの正体 第一二〇項 オサキの実物

620字 約1分 2016年6月5日 公開

読み方を変える
字の大きさ
行の間隔
1行の長さ
書体
配色
組み方

 右のオサキ事件につき、数十年前『国会』新聞に出でたる報告を、参考のために左に抜抄しておこう。

 目にみるべからずして、この害を被るもの世に多しと聞くは、オサキ(きつね)なり。果たして、幻妙、不可思議の通力を有する動物中にオサキ狐なるものありやいなやは、われ得て知らずといえども、狡黠鼠(こうかつねずみ)のごとき、狐のごとき、まれに見るところの動物なしとはいうべからず。前橋市の北岩神村にては、近年養蚕の時期に際し、一夜のうちに蚕児の夜な夜な減少すること前に異ならざるより、ある家にては断じて養蚕を廃するに至れり。その害を被るは、岩神の一部落通じてしかるにはあらずして、ただ松本長吉方二、三軒に過ぎず。しかして、松本方にては本年も相変わらずその害にかかるより、ある人の勧めにまかせ、野州コブガ原より天狗(てんぐ)を請ぜんとて、先方に至りてこれを祈りしに、その効ありてや、同夜のうちに一匹の小動物、屋外にかみ殺されいたるを発見せり。その大きさは通常の鼠より小さく、鼻は(いのこ)のごとく、目を縦にして、さながら土竜(もぐら)のごとく、軟毛全身に密生して、尾さき二つに裂けたる奇獣にて、顕微鏡にてこれを検すれば、毛さきに一種の異彩を放てり、云云(うんぬん)。オサキ狐とは果たしてかかるものかいなやを知らねど、天狗がこれをかみ殺せしと信ずるなどは笑うにたえたり。

 この奇獣は余も信州佐久郡にて、アルコールに漬けてあるのを実視したことがあるが、動物学者の説には、(いたち)の一種であるということだ。つまり変形動物に相違ない。

目次に戻る

目次