122話 おばけの正体 第一二二項 天狗の筆跡
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伊豆国天城山南、湯ヶ野温泉旅館に数年前、白髪長髯の一老翁来たり宿して、一夜のうちに襖に文字を書して去った。その文字はなにびとも読み下すことできず、昔の天狗文字に似たる筆法である。旅宿帳には薩州人と記してある由。もし、維新前にかかることあらば、必ず天狗の文字と定められ、その老人は天狗とみなされたであろう。伊東温泉の日蓮宗の寺に天狗の詫証文があるが、これは梵字に似ておる。その他にも天狗の書を秘蔵せるものがある。余も一枚所持せるも、みな天狗の所為にあらずして、人為に出ずることは疑いないと思う。