おばけの正体

35話 おばけの正体 第三五項 無縁仏の涙雨

427字 約1分 2016年6月5日 公開

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 先年発行の『(みやこ)新聞』の雑報欄内に、左の一項を掲げてあった。

 府下南千住町の法華庵は、昔の刑場なる小塚原通りにて、境内および近所には、千人塚、無縁仏など、囚人の亡魂を祭りし墳墓あり。(もち)(かし)、その他の雑木生い茂りて、すこぶる薄さびしき所なるが、四、五日前より天気快晴なるにもかかわらず、この境内の樹木より、ポツリポツリと雨雫(あましずく)が落ちきたるを近所の者が認め、「不思議だ、不思議だ」と言い触らせしより、たちまち大評判となり、毎日黒山のごとき人だかりにて、「むかし、この所にて首をはねられた囚人が、無縁仏となり得道解脱(とくどうげだつ)ができずして、地獄の中に泣き叫ぶ、その涙雨が降るものならん」と(うわさ)し合う、云云(うんぬん)

 その原因は、この場所が日本鉄道隅田川線荷物列車踏切の南に隣りいるゆえ、汽車が通行の際、汽罐(きかん)より吹き上ぐる湯気が木の葉に掛かって凝結し、雫となって落つるのであったそうだ。しかるに、愚民はよくその原因をたださずに、己の迷信より種々の妄想を付会して、仏の涙などと申せし由。

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