おばけの正体

63話 おばけの正体 第六三項 大根の化け物

775字 約2分 2016年6月5日 公開

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 かつて妖怪研究会員の一人、高橋某氏より自身の実験談を報知してきたことがある。その全文を左に。

 去る明治二十五年十月ごろなるが、私方にて同村なる某家へ差し置き難き用向きのため、日暮れごろなりしもその家に行き用を果たして帰りけるが、内に乳児のあることなればとて(主婦でありました)、急ぎ足にて案内知れる近道なる畑道をぞ来たりける折しも、日はすでに西山に落ちて四面薄暗く、ことに小雨の降りければ、ひとしおものすごく覚えけるが、わが家よりその家までは道程(みちのり)も遠からず、この畑道の間には別段さびしき所もなけれども、ただ日蓮宗の宝塔塚およびその近傍に当たり、「ばんげ」の地蔵と通称する所ありき。そのころには、ここに幽霊が出るとか青火がもゆるなどと言い合えりけるが、しかるに二、三町行きしと思うころ、二、三間ほどの前面に当たりて、人の形のごとく六、七尺もあらんと思うほどのものが、長き髪を垂れ、中段以下はおぼろにて分明ならざりしも、少しずつ動きいるがごとくに見えければ、思わずハッと驚き、二、三歩引き下がりしまま見向きもやらず。身震いして引き返し、さきに行きし家に行き、右の由を語りければ、先方にもいと不思議に思い、「しからばその宅まで送り行かん」と言われしも、これを辞して提灯(ちょうちん)を借り、本道を回りて帰宅し、右の次第を語りつつ翌朝さらに該所に至り見しも、さる物とては見当たらざりしが、その場と思う所より四、五間ほどへだたりたる所の木の枝にて、千葉(大根の菜)の二、三連かかりありけるを認めたりと。これ、日ごろ聞き覚えたる怪談のことなどを思い出でて、ものすごく思いし折なるに、かかる物の目に触れければ、恐怖の情一時に激発して、かかる幻覚を起こししなるべし。余輩愚俗の妖怪とするは、おおかたこの類ならんか。

 この報告を読まば、「幽霊の正体見たり菜大根」といわねばならぬ。

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