64話 おばけの正体 第六四項 紙幡の誤覚
読み方を変える
字の大きさ
行の間隔
1行の長さ
書体
配色
読み上げの速さ
組み方
昔の話に、瓢箪を幽霊と誤って、刀を抜いて切ったものがあるというが、幽霊の誤覚の例は実にたくさんある。ある人の記するところによるに、今より四、五十年前に、東京と横浜との間に六郷川がある。その川筋に郷地と名づくる地名がある。ある夜、その村のもの二、三人づれにて、その日に葬式のあった寺の前を通りかかったところ、その門側に白衣を着たるものにて、腰より下は地より離れ、左右に動きつつある姿を見た。これ、世にいうところの幽霊に相違なしと思い、一同恐ろしく感じ、その近傍の酒屋へ逃げ込み、戸をたたいて寝入りたるものを起こしたれば、酒屋の若いものども、六尺棒を手に持ち、イザござれ、世に化け物のあらんやとの勢いにて、さきに立って行き、よくよく見れば、葬礼のときに紙にて造りたる幡が、木の枝に掛かりたるのであったとのこと。