おばけの正体

83話 おばけの正体 第八三項 怪獣を生け捕る

727字 約1分 2016年6月5日 公開

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 古来、古寺や古屋に妖怪沙汰(ざた)あるは、(てん)(いたち)の古びたるものが住み、夜中恐ろしき響きを伝え、あるいは暗き所に光りたる目を見せたりするのを見聞し、これに神経が加わり想像が手伝い、風評が高まりして、大怪物談となる。その一例として、先年の『万朝報(よろずちょうほう)』雑報に見えたる一節を転載しよう。

 徳島県板野郡長岸の観音寺といえるは名代の古寺にて、堂宇は撫養(むや)川にのぞみ、これまで本院には大黄鼬(おおてん)棲息(せいそく)して、まれには人の目にもかかり、また川には大鼇(おおがめ)の住み、陸に上がって鳴きしことありしとの怪談などもありしが、このごろに至り、折々堂宇の天井の落つるかと疑うほどの物音の響き、あるいは方丈裏にあたり人の走りしごとき物音のあるなど、不思議のことのみなれば、去る九日の夜、同地にて興行の東京力士、緑川、小岬、小緑、若岬などいえる力自慢の者どもが、妖怪退治に出かけ、庫裏(くり)にて回り話に妖怪物語などをなしおりしにぞ。同夜の十二時ごろともおぼしきころ、方丈裏に当たり果たして怪音ありたれば、一同得物を携え本堂の方に至りしに、本堂前の金網戸に眼光炯々(けいけい)、人を射るものあるより、緑川らは妖怪なにほどのことやあると、得物をもって打ちてかかり、本堂の中を追い回しいるうち、ほかに若者数名も駆け集まり、ようようにして生け捕り見れば、その妖怪は一種の獣類にして、目まるく口とがり、牙の鋭きこと狼虎(ろうこ)のごとく、爪は長くして熊に類し、全身黒色に灰色を帯び、胸のあたり少しく薄黄色なり。これを見て、黄鼬の年経たるものなりというあり、またはコヒと名づくるものなりという者ありて、ともかくも珍しき怪獣なりという。かかる怪獣ありて怪を現すは事実なるがごとし。

 この一例を見て、ほかの古寺、古屋の怪談の原因を推測することができる。

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