おばけの正体

97話 おばけの正体 第九七項 蜃気楼の説明

529字 約1分 2016年6月5日 公開

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 日本全国中、蜃気楼(しんきろう)の名所は越中魚津なるが、ほかにも往々その出現する所がある。伊予宇摩郡金生村、星川宇四郎氏の実験談なりというを聞くに、同氏が夜中、隣村川之江(あざ)井地某方より帰路、数十歩前において人語がする。近づき見るに人影だもない。その近傍に瓢山(ひさごやま)と名づくる小山がある。古来その山に老狸(ろうり)住して、夜中、舟を空中に現出するといい伝えておる。よって氏はこれを(たぬき)の所為なりと考え、二、三歩を進むる間に、およそ一丁ばかり離れて空中に突然蒸気船が現出し、その船、南方に向かい進行しつつあるうちに間もなく光明を放ち、甲板に二人のてすりによりて下を眺めおるを明らかに認むるを得た。これより船に近づかんと欲し、その方に歩みを進むる途中、知人の来たるに会し、ただちにその船を指示せしに、知人も現にこれを目撃した。かくして暫時の後、船影は消失せしという話である。夜中の時刻と夜分の状況いかんを知らざれども、その談だけにつきて考うれば、蜃気楼と判断せざるを得ない。蜃気楼は気候の激変によって、空気の上層と下層と非常に密度を異にするに至り、光線の屈折によって、通常は視線に入らざるところの実景が浮かび上がって見ゆるのである。昔はこれを真の不思議と思いしも、今日は妖怪でないことになった。

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