41話 四十一
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「どうです、御承知だろうね、町内じゃあお前さんの家が第一新顔だから、何かその辺にものでもあるように思われては迷惑、可うごすかい、分りましたろう。」
「軍鶏を寄越せって謂うんですか。」
「さようさ。」
「連れてってどうなさるの。」
「占めるんでえ、殺っちまうんでえ。」
と鉄だろう、打まけた。
慌て騒ぐと思の外、お夏は莞爾して、
「不可ませんわ。」
「不可ねえと!」
「まあまあまあ、静かに言っても分ることだ。もし、不可ませんなんてそう平気でいられちゃあ困るじゃあごわせんか。一体、母様に懸合う筈なんだけれど、御病人だからお前さんだ、見なすったろう、嘉吉さん許のなんざ、あの騒。」
「御免なさいな。」となお笑いながら平気なもので、お夏は下に居て片袖の袂を添えて左手を膝に置いて、右手で蔵人の背を撫でた。
「仕ようがないねえ。」
顔を見合せたのが二三人、談判委員もちと案外という語気で、
「呑気にどうも軍鶏と談なんかしていられちゃ困りますよ、ちょこまかした事とは違いますぜ。」
お夏は振仰いで、
「ですから御免なさいまし。」
「あやまるの、あやまらないのというような岡ったるいこっちゃあないんだというに、困っちまうな。」
「私だって困っている、」とお夏も差俯向いた。
「月夜で門へ寄合ったという条、大きな野郎が五人三人、こうやって来たんだから、よくよくの事だと思いなさい、ね、ささ、これが一番分が早い、分りましたか。」
退引かせず詰寄るに従って、お夏はますます庇立、蔵人に押被さるばかりにしつつ、
「もうきっとですよ、きっと鳴きはしませんよ、大丈夫だよ。私がよく言って聞かせますから。」
「おやおや、この上軍鶏と話なんぞされて堪るものか、気味の悪い、何てッたってどうせ助けてはおかないんだ。へん、言って聞かせる、人間の言うことを肯いて鶏が鳴かないようなら、勝手の悪い時は夜が明けねえや。」と嘲笑った者がある。
お夏は屹と見て、
「何、」
「何、何たあ、何たあ何だい、経師屋の旦那に向って、何たあ何だい、そんな口は軍鶏に利け。」
「はい、軍鶏の方が、お前さん方より余程いうことが分りますよ。」
「皆様。」
一同の眼はお夏に注いだ。
「面倒だ、やッつけましょう、可いや、手籠が悪いという方がありゃ後でまた対手になる、留めなすったって合点しねえ、さあ、退け。」
腕まくりをして掴みかからんず権幕であるのに、お夏は更に意に介しないか、眼あるものならば面をも向けられないほど、品ある顔に笑を湛えて、
「それでもほんとに分らないんだもの、あやまったら可いじゃありませんか。」
自ら疑わないことまたかくのごときはあるまい。まさに突飛ばして軍鶏を奪わんとした男も、余りのことに手が出なかった。
それが猶予ったので、かえって傍からいきり出した。あっちこっち耳ッこすりをして、
「エ、」
「さようさ。」
衆議一決。