三枚続

41話 四十一

1,171字 約2分 2012年4月8日 公開

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「どうです、御承知だろうね、町内じゃあお前さんの(うち)第一(いっち)新顔だから、何かその辺にものでもあるように思われては迷惑、可うごすかい、分りましたろう。」

軍鶏(これ)を寄越せって謂うんですか。」

「さようさ。」

「連れてってどうなさるの。」

「占めるんでえ、()っちまうんでえ。」

 と鉄だろう、(ぶち)まけた。

 慌て騒ぐと(おもい)の外、お夏は莞爾(にっこり)して、

不可(いけ)ませんわ。」

「不可ねえと!」

「まあまあまあ、静かに言っても分ることだ。もし、不可ませんなんてそう平気でいられちゃあ困るじゃあごわせんか。一体、母様(おっかさん)に懸合う(はず)なんだけれど、御病人だからお前さんだ、見なすったろう、嘉吉さん(とこ)のなんざ、あの(さわぎ)。」

「御免なさいな。」となお笑いながら平気なもので、お夏は下に居て片袖の(たもと)を添えて左手(ゆんで)を膝に置いて、右手(めて)で蔵人の(そびら)()でた。

「仕ようがないねえ。」

 顔を見合せたのが二三人、談判委員もちと案外という語気で、

呑気(のんき)にどうも軍鶏と(はなし)なんかしていられちゃ困りますよ、ちょこまかした事とは違いますぜ。」

 お夏は振仰いで、

「ですから御免なさいまし。」

「あやまるの、あやまらないのというような岡ったるいこっちゃあないんだというに、困っちまうな。」

「私だって困っている、」とお夏も差俯向(さしうつむ)いた。

「月夜で(かど)へ寄合ったという条、大きな野郎が五人三人、こうやって来たんだから、よくよくの事だと思いなさい、ね、ささ、これが一番(わかり)が早い、分りましたか。」

 退引(のっぴ)かせず詰寄るに従って、お夏はますます庇立(かばいだて)、蔵人に押被(おっかぶ)さるばかりにしつつ、

「もうきっとですよ、きっと鳴きはしませんよ、大丈夫だよ。私がよく言って聞かせますから。」

「おやおや、この上軍鶏と話なんぞされて(たま)るものか、気味の悪い、何てッたってどうせ助けてはおかないんだ。へん、言って聞かせる、人間の言うことを()いて鶏が鳴かないようなら、勝手の悪い時は夜が明けねえや。」と嘲笑(あざわら)った者がある。

 お夏は(きっ)と見て、

「何、」

「何、何たあ、何たあ何だい、経師屋(きょうじや)の旦那に向って、何たあ何だい、そんな口は軍鶏に利け。」

「はい、軍鶏の方が、お前さん方より余程(よっぽど)いうことが分りますよ。」

皆様(みなさん)。」

 一同の(まなこ)はお夏に注いだ。

「面倒だ、やッつけましょう、可いや、手籠(てごめ)が悪いという方がありゃ後でまた対手(あいて)になる、留めなすったって合点(がってん)しねえ、さあ、退()け。」

 腕まくりをして(つか)みかからんず権幕であるのに、お夏は更に意に介しないか、眼あるものならば(おもて)をも向けられないほど、品ある顔に(えみ)(たた)えて、

「それでもほんとに分らないんだもの、あやまったら可いじゃありませんか。」

 自ら疑わないことまたかくのごときはあるまい。まさに突飛ばして軍鶏を奪わんとした男も、余りのことに手が出なかった。

 それが猶予(ためら)ったので、かえって(はた)からいきり出した。あっちこっち耳ッこすりをして、

「エ、」

「さようさ。」

 衆議一決。

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