比島投降記 ある新聞記者の見た敗戦

28話 サージェントG

679字 約1分 2017年3月17日 公開

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 ルソン島の東海岸カシグランに、山越しをして来た日本兵がいて、その四十名が担送患者(リッター・ケース)だという情報に、僕が乗っていたLSTは僚艦と共にルソン島の南端をまわって、カシグランへ航行することになった。陸軍側からR大尉が、Gというテック・サージェント以下数名を引率して乗込み、マニラ湾を出帆した。日本人は僕一人である。それで、乗組員と同じ食事をすることになった。士官と水兵の食事が終る頃、きまってARという水兵長が「イシ、チャウ」と知らせに来る。僕は遠慮して甲板でひとりで食事をした。この時のことは既に書いた通りである。

 ある朝、ひどい時化(しけ)で甲板にいられず、兵員の食堂で食事をした。オイルクロースを張った食卓の一番端に、皿を持って行って坐ると、丁度食事を終って立上ったGが、実にさりげなく、塩と胡椒の小瓶を右手の甲で押して食卓の上をすべらし、僕の前に置いて出て行った。

 朝飯にはベーコン・エッグスが出た。塩と胡椒は僕からすこし離れた所にあり、そこには水兵が二、三人まだ食事をしていたから「取ってくれ」といえば取ってくれたに違いないが、PWである僕は遠慮していたのである。それと察してかどうか、Gは出がけに、黙って僕に親切をしてくれたのである。特に捕虜に情をかけるとか、武士の思いやりとかいうのではなく、なんということなく、習慣みたいに、こんなことをしたのである。これは何が原因しているのだろう。家庭の躾であるとしか、僕には思われない。それにしても、何といういい躾だろう。僕にはGの家庭が、目に見えるような気がした。僕の胸には、何か暖かい霞みたいなものが、一ぱいになった。

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