佐藤春夫詩集

23話 消閑雜詩 私の柱時計

227字 約1分 2022年4月9日 公開

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ある日、私は、ある場末の時計屋で古びた風變りな時計を一つ買つて來た。壁に掛けてから三時間以上もそれを眺めて、私は遊んだ。電燈がついてから、次のやうなものを書いた――

文字は喜のやうに鮮かな金

文字板は死のやうにまつ黒

ぐるりは花と葡萄葉との飾

振子と言へばたつた一房の

風に搖れるあまい葡萄の實

このよい柱時計の細工人は

無名でこそあつたがきつと

エピキュラス程の賢者だつた

美しい教はつつましいから

人に知られずに三十年の間

場末の店で塵まみれだつた

チクタクチクタクチクタク

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