佐藤春夫詩集

30話 消閑雜詩 冬夜微吟

593字 約1分 2022年4月9日 公開

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人しづまりて

風なごみぬ

燈(ともしび)と

こころと

古(いにしへ)となりぬ。

告げよ

何者ぞ、

古より來り

われを今過(よぎ)り

後(のち)に行く

あはれ

たぎる湯のごとく

樂しいかな

わが冬の夜(よる)。

――つがれたる炭の

灰となりゆく間(あひだ)。

キイツの艶書の競賣に附せらるるとき

(オスカァ・ワイルド)

これはこれ悉くエンディミオンが

別れ居て心ひそかに愛したるものにかきし文。

いま糶市(せりいち)の喧騷は

あさましく垢づきし各の紙幣をもてとりひきす。

げにや詩人が熱情の一つ一つの脈動に

あきうどの評價を呼ばふ。かの輩は藝術を愛せず

かの輩は詩人の心の寶玉を打碎き

これによりて小さく且つ病める眼を得意げにかがやかすなり。

聞かずや、そのむかし

遠き東方のとある町に、兵士等ありて

炬火(たいまつ)を翳して眞夜中を走せ

哀れなる人の衣(ころも)を得んとして罵りさわぎ

さてはその衣を賭物として鬮をひき

神が驚きをもはたそが歎きをも思はざりし事を。

譯註

斯くしてイエスを十字架に釘しのち鬮を拈りて其衣を分つ(馬太傳)

イエスを十字架につけしのち、誰が何を取んと鬮を拈りてその衣服を分てり(馬可傳)

彼等鬮をしてイエスの衣服を分つ(路加傳)

兵卒どもイエスを十字架に釘し、後その上衣をとり四つに分て各その一を取りまた裏衣(したぎ)を取り、此裏衣は縫なく上より渾く織れるものなりければ、互に言ひけるは、之を裂かずして誰の屬にならんか鬮にすべし、此は聖書に彼等たがひに我衣を分わが裏衣を鬮にすと云ふに應せん爲めなり。兵卒ども已に此事を行り(約翰傳)

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