4話 第二場(2)
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村の人一 ええ、まあ、御身たちゃあ何をしとるだ。
村の人二 大師様のおつかい姫だ思うで、わざと遠く離れてるだに。
村の人三 うしろから拝んで歩行くだに――いたずらをしてはなんねえ。
村の人四五六 (口々に)来うよ来うよ。(こんどは稚児を真中に)南無大師遍照金剛、……(かくて、幕に入る。)
夫人 (外套をとり、塵を払い、画家にきせかく)ただ一度ありましたわね――お覚はありますまい。酔っていらしって、手をお添えになりました。この手に――もう一度、今生の思出に、もう一度。本望です。(草に手をつく)貴方、おなごり惜しゅう存じます。
画家 私こそ。(喟然とする。)
夫人 爺さん、さあ、行こう。
人形使 ええ、ええ。さようなら旦那様。
夫人 行こうよ。
二人行きかかる。本雨。
画家 (つかつかと出で、雨傘を開き、二人にさしかく)お持ちなさい。
夫人 貴方は。
画家 雨ぐらいは何の障もありません。
夫人 お志頂戴します。(傘を取る時)ええ、こんなじゃ。
激しく跣足になり、片褄を引上ぐ、緋の紋縮緬の長襦袢艶絶なり。爺の手をぐいと曳く。
人形使 (よたよたとなって続きつつ)南無大師遍照金剛。
夫人 (花道の半ばにして振かえる)先生。
画家 (やや、あとに続き見送る。)
夫人 世間へ、よろしく。……さようなら、……
画家 御機嫌よう。
夫人 (人形使の皺手を、脇に掻込むばかりにして、先に、番傘をかざして、揚幕へ。――)
画家 (佇み立つ。――間。――人形使の声揚幕の内より響く。)
――南無大師遍照金剛――
夫人の声も、またきこゆ。
――南無大師遍照金剛――
画家 うむ、魔界かな、これは、はてな、夢か、いや現実だ。――(夫人の駒下駄を視る)ええ、おれの身も、おれの名も棄てようか。(夫人の駒下駄を手にす。苦悶の色を顕しつつ)いや、仕事がある。(その駒下駄を投棄つ。)
雨の音留む。
福地山修禅寺の暮六ツの鐘、鳴る。――幕――
大正十二(一九二三)年六月