臘梅

1話 臘梅

286字 約1分 2007年8月6日 公開

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 わが裏庭の垣のほとりに一株の臘梅(らふばい)あり。ことしも(また)筑波(つくば)おろしの寒きに琥珀(こはく)に似たる数朶(すうだ)の花をつづりぬ。こは本所(ほんじよ)なるわが()にありしを田端(たばた)に移し植ゑつるなり。嘉永(かえい)それの年に()られたる本所絵図(ほんじよゑず)をひらきたまはば、土屋佐渡守(つちやさどのかみ)の屋敷の前に小さく「芥川(あくたがは)」と記せるのを見たまふらむ。この「芥川」ぞわが()なりける。わが()徳川家(とくがはけ)瓦解(ぐわかい)(のち)は多からぬ扶持(ふち)さへ失ひければ、朝あさのけむりの立つべくもあらず、父ぎみ、叔父(をぢ)ぎみ道に立ちて家財のたぐひすら売りたまひけるとぞ。おほぢの脇差(わきざ)しもあとをとどめず。今はただひと株の臘梅のみぞ十六()の孫には伝はりたりける。

臘梅(らふばい)や雪うち()かす枝の(たけ)

(大正十四年五月)

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