○○獣

2話 不思議の音響

1,203字 約2分 2003年12月16日 公開

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 敬二少年は、もうすっかり目が()えてしまった。寝ていても無駄なことだと思ったので、彼は寝床から起き出して、冷々(ひえびえ)した硝子(ガラス)窓に近づいた。月はいよいよ(あきら)かに、中天(ちゅうてん)に光っていた。なぜ月は、あのように薄気味のわるい青い光を出すのだろう、どう考えたって、あれは墓場から抜け出して来たような色だ。さもなければ、爬虫類(はちゅうるい)の卵のようにも思える。敬二には、今夜の月がいつもとは違った、たいへん気味のわるいものに思えてくるのだった。

 そのときだった。

 ビビビーン。奇妙な音響が敬二の耳をうった。そう大きくない音だが、肉を切るような異様(いよう)に鋭い音だった。

「今時分、何の音だろう?」硝子窓の方に耳をちかづけてみると、その窓硝子がビビビーンと鳴っているのだった。

 なぜ窓硝子は鳴るのだろう、彼はこれまでにこの窓硝子の鳴ったのを一度も聞いたことがなかった。だからたいへん不思議なことだった。だが窓硝子はひとりで鳴るはずがない。必ず何処かに、この窓硝子を鳴らすための力がなければならぬ。その力の元は何であろうか。

「はて、何だろう?」敬二は窓越しに、深夜の地上を見やった。どの建物の屋根も壁も窓も、すっかり熟睡しているように見える。怪しき力の元は、どこにも見当らない――と思ったそのとき、ふと敬二の注意をひくものが……。

「おや、あれは何だろう」それは(ぼう)ッと、ほの赤い光であった。二百メートルほど先の、東京ビルの横腹を一面に照らしている一大火光(いちだいかこう)であった。はじめは火事だろうかと思った。火事ならたいへんだ。火は一階から四階の間に拡っているんだから、だが火事ではない。赤い光ではあるが、ぼんやりした薄い色なんだから。

 その大火光は、ときどき息をしていた。ビビビーン、ビビビーンと窓硝子の音が息をするのと同じ度数(どすう)で、その大火光もパパーッ、パパーッと息をした。だから敬二は、窓硝子の怪音と東京ビルの横腹(よこばら)を照らす火光とが同じ力の元からでていることを知った。さあ、こうなるとその火光がどうして見えるんだか、早く知りたくなった。

 敬二は、寝衣(ねまき)を着がえて、早速(さっそく)あの東京ビルの横にとんでいってみようかと思った。でも、すぐそうするには及ばなかった。というのは、その怪しき大火光の元が分るような、不思議な怪物が、敬二の視界のなかにお目見得したからである。それは丁度、東京ビルの横に、板囲(いたがこ)いをされた広い空地(あきち)の中であった。そこには黄色くなった雑草が()えしげっていて、いつもはスポンジ・ボールの野球をやるのに、近所の小供(こども)大供(おおども)が使っているところだった。その平坦(へいたん)な草原の中央とおぼしきところの土が、どういうわけか分らないが、敬二の見ている前で、いきなりムクムクと下から持ちあがって来たから、さあ大変! 東京ビルの横腹を染めていた大火光は、その盛りあがった土塊(どかい)のなかから、照空灯(しょうくうとう)のようにパッとさし出ているのであった。地面の下からムクムクと頭をもちあげてきたものは、一体何だろう。

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