商賈聖母

1話 商賈聖母

290字 約1分 2007年7月19日 公開

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 天草(あまくさ)(はら)の城の内曲輪(うちくるわ)。立ち昇る火焔。飛びちがふ矢玉。伏し(かさ)なつた男女の死骸(しがい)。その中に手を負つた一人の老人。老人は石垣の上に懸けた麻利耶(マリヤ)の画像を仰ぎながら、高声に「はれるや」を(とな)へてゐる。

 忽ち又一発の銃弾(じうだん)

 老人はのけざまに(たふ)れたぎり、二度と起き上る気色は見えない。白衣の聖母は石垣の上から、黙黙とその姿を見下してゐる。おごそかに、悠悠と。

 白衣の聖母? いや、わたしは知つてゐる。それは白衣の聖母ではない。明らかに唯の女人である。一朶(いちだ)薔薇(ばら)の花を愛する唯の紅毛の女人である。見給へ。その女人の下にはかう云ふ金色の横文字さへある。ウイルヘルム煙草商会、アムステルダム。阿蘭陀(オランダ)……

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