パステルの竜

1話 パステルの竜

1,125字 約2分 2007年7月28日 公開

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 これは上海(シヤンハイ)滞在中、病間に訳したものである。シムボリズムからイマジズムに移つて行つた、英仏の詩の変遷は、この二人の女詩人の作にも、多少は(うかが)ふ事が出来るかも知れない。名高いゴオテイエの娘さんは、カテユウル・マンデスと別れた後、Tin-tun-Ling と云ふ支那人に支那語を習つたさうである。が、李太白(りたいはく)杜少陵(とせうりやう)の訳詩を見ても、訳詩とはどうも受け取れない。まづ八分までは女史自身の創作と心得て然るべきであらう。ユニス・テイツチエンズはずつと新しい。これは実際支那の土を踏んだ、現存の亜米利加(アメリカ)婦人である。日本ではエミイ・ロオウエル女史が有名だが、テイツチエンズ女史も庸才ではない。女史の本は二冊ある。これは一九一七年に出た、二冊目の PROFILES FROM CHINA から訳した。訳はいづれも自由訳である。

     月光

       ――Judith Gautier――

満月は水より出で、

海は(しろがね)の板となりぬ。

小舟には、人々(さかづき)を干し、

月明りの雲、かそけきを見る。

山の上に(ただよ)ふ雲。

人々あるひは云ふ、――

皇帝の白衣の(きさき)と、

あるひは云ふ、――

(あま)(かけ)(くぐひ)のむれと。

     陶器(すゑもの)(ちん)

        ――同上――

人工の(みづうみ)のなか

緑と青と、陶器(すゑもの)(ちん)一つ。

かよひぢは碧玉(へきぎよく)の橋なり。

橋の()り、虎の背に似つ。

亭中に、綵衣(さいい)の人ら。

涼しき酒、(さかづき)に干し。

物語り又は詩つくる、

高々と袖かかげつつ、

のけ(ざま)に帽(かづ)きつつ。

水のなか、

明かにうつれる橋は

碧玉の三日の月めき、

綵衣(さいい)の人ら

逆様(さかさま)に酒のめる見ゆ、

陶器の亭のもなかに。

     夕明り

      ――Eunice Tietjens――

 乾いた秋の木の葉の上に、雨がぱらぱら落ちるやうだ。美しい狐の娘さんたちが、小さな足音をさせて行くのは。

     洒落者(しやれもの)

        ――同上――

 彼は緑の絹の服を着ながら、さもえらさうに歩いてゐる。彼の二枚の上着には、毛皮の縁がとつてある。彼の天鵞絨(びろうど)の靴の上には、(くうづ)の裾を巻きつけた、意気な(くるぶし)が動いてゐる。ちらちらと愉快さうに。

 彼の爪は非常に長い。

 朱君は全然流行の鏡とも云ふべき姿である!

 その華奢(きやしや)な片手には、――これが最後の御定(おきま)りだが、――竹の鳥籠がぶらついてゐる。その中には小さい茶色の鳥が、何時でも驚いたやうな顔をしてゐる。

 朱君は寛濶(かんくわつ)な微笑を浮べる。流行と優しい心、と、この二つを二つながら、満足させた人の微笑である。鳥も外出が必要ではないか?

     作詩術

        ――同上――

 二人の宮人は彼の前に、石竹(せきちく)の花の色に似た、絹の屏風を開いてゐる。一人の嬪妃(ひんき)(ひざまづ)きながら、彼の硯を守つてゐる。その時泥酔した李太白(りたいはく)は、天上一片の月に寄せる、激越な詩を屏風に書いた。

(大正十一年一月)

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