国民教育の複本位

4話 〔女子大学の必要性〕

1,941字 約4分 2019年8月19日 公開

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 斯様(かよう)に静かに考えてみると、実に女子大学の必要を感ずるのであるが、今退(しりぞ)いて何故に女子は国民から取除(とりの)けられ、単本位の勢力をもっておったかと申しますると、畢竟(ひっきょう)男子は強く、独り強いばかりでない、多少教育もあって物を知っておる。これに反して女子は弱い、また教育もなかったというために、女子の勢力というものが非常に程度の低いもので、ついに銀が金に圧せられて、単本位の有様となったのである。これはどうもいかぬ。どうしてもこの国を強うするというには、是非(ぜひ)女子の程度を高めて、複本位、即ち男女を以て国民を組立て、(しか)してこの夫婦の関係よりして家庭の教育を為すでなければ、とても優等なる国とすることは出来ぬと思います。

 それ故に女子大学、初めは実に大胆なる話と思った。女子大学というものが、世界に在るかどうか、私には分らんくらいで、実は初めは冷淡に考えた。ところが(しず)かに考えてみたら、そうではない。どうしてもこの女子の教育が進まんでは家庭教育――家庭教育のお話は先刻から反覆お話があったが、どうしても男子より女子に重きを置かなければならん。遺伝の力も男子より女子が一層強いです。

 それから今一つ感じを起したのは、小学校の普通教育はよほど進んで来た。先刻お話しになった国々と比較してみると、甚だどうも歎息(たんそく)する訳であるが、しかし女子の小学に入る数は、よほど増したから、これは(よろ)しい。しかし小学以上の教育は誠に指を屈するほどしかない。女子の高等教育というものはほとんど無いくらいである。小学の教育を受けた女子は年々数を増すが、幾歳で卒業するかというと、十三、四歳、十三、四歳から婚姻するまでには、どうしても六、七年間がある。その間何をしておる。それはどうも先刻成瀬君が歎息をせらるる通りの風俗、実に恐るべき風俗に導かれて、そうしてマ一つの弊害は、早婚の弊、これは実に怖ろしい。今日の有様であれば、段々日本の国民の体力は弱くなってしまう。体力が弱くなると同時に精神が弱くなって来るに相違ない。これではどうも世界の強国と相対(あいたい)するということはとても出来ない。世界の最も文明なる最も強壮なる国民と相競うという事については、その(もと)を養わなくてはならん。その源は(なん)であるといえば即ち女子の教育である。

 それ故に私は女子大学、初めは大胆の事と考えたが、考えてみると決してそうではない。しかしこれはなかなか困難な事業である。前途甚だ遠いことであるが、()らんでは()かん。また女子の教育については失敗もあろう。弊害もありましょう。しかし弊害があらばその弊害を(はら)わなければならん。また失敗があらばその失敗に(かんが)みて成功の企てをしなければならん。ここに於て私は熱心に成瀬君の説に同意した。それ故私は教育の事には少しも経験もなければ学問も無いに(かか)わらず、熱心に成瀬君のために労を取って、出来るだけ力を尽してこの大学を成立せしめて将来の繁栄を望み、この大学の力を以て将来女子教育に及ぼす所の感化力を益々(ますます)大にして、我が国の女子教育の程度を進歩発達せしめたい。その成功をこの学校より起すことを望んで、力を尽す心得で賛成致した訳でありますから、もし諸君がご同感ならばお互いに充分力を尽してこの学校の事に尽力せられんことを希望致します。

 一体教育家はただこれ一の事業家であって、賛助員諸君はその資本家であります。たとい教育家にして志望に満ち、精神に溢れ、赤誠(せきせい)に富みまするも、教育事業の資本家たる諸君の助力(なか)りせば、あたかもこれ糧食なくして戦陣に臨むと一般で、如何(いか)なる勇将猛卒(ゆうしょうもうそつ)()くその功を奏する事ができざる如く、教育事業も挙がらぬということは瞭然(りょうぜん)火を見る様であります。

 今それ女子教育の国家に必要なる――日本女子大学校設立の日本女子教育に必要なる、既に前段述べた通りであれば、諸君のこれを賛助せらるるの必要は申すまでもなく、その日本女子大学校の設立せらると否とは、まことに賛助員諸君の意向如何(いかん)に存すと言って(よろ)しいのでありますまいか。

 今もし不幸にして日本女子大学校が設立せらるる運びに至らざる様なる事あらば、ただに遺憾(いかん)なるのみならず、また実に諸君が平日業務に従事せらるる素志目的に戻るものと()わねばなりません。日本の金権を掌握するところの大都名邑(めいゆう)の紳士豪商諸君が、賛助の意を表したる一箇(いっか)の女子大学校が設立を(まっと)うする事が出来ぬとは、(わたくし)の信ずることの出来ぬところであります。

 諸君、諸君が日本女子大学校を賛助せらるるは、一個の主唱者、一団の発起人に助力を与うるのではありません。実に国家の生命に食物を供給し、国を富まし、兵を強うし、以て国家をして健全なる発達を遂げしむるものであって、諸君が平常の素志目的を貫くの一端に(ほか)ないと思います(拍手大喝采)。

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