現代の婦人に告ぐ

3話 三 誇るべき基督の偉功

1,176字 約2分 2020年9月13日 公開

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 男女両性の問題については古来幾多(いくた)の思想家も、宗教家も、はた立法家も、皆迷うた。釈迦(しゃか)も迷えば、孔子(こうし)も迷う、ソロモンも迷えば、マホメットも皆迷った。基督(キリスト)教国を以て誇る西洋諸国も、旧約時代までは全く迷っていたので、基督(キリスト)に至って初めて、千古の疑問に一大鉄案(いちだいてつあん)を下したのである。両性相愛するは、一切の生物間に共通の事実であるけれども、その婚姻には進化があって互いに等しきを得ぬ。即ち人間以外の動物に在っては、繁殖のみあって、それに秩序を与うる道なるものが存在しておらぬ。これあるは独り人間であるが、この人間もその蠢爾(しゅんじ)たる原始生活を営む時代には、あたかも野獣の如く雑婚を(ほしいまま)にしていたので、生るる小供に母は有るけれども父はない。従って母に対する孝はあっても、父に対する孝なるものは無く、兄弟姉妹があっても血が混淆(こんこう)して同異を弁じ難いから愛情も乏しく、生長すれば相離散するので、ほとんど家庭を為さぬ。それが進化して次には一夫多妻となり、婦人をば権力富力あるものの兼併(けんぺい)に任せたが、本来天の人類を造るに、ほぼ男女の数をして相等しからしめて在るのだから、かくの如き一夫多妻の許されている時代には、他方に孤独を以て生涯を終らねばならぬ多数の男子を生ぜねばならぬ訳で、かくの如きは、吾人が平和なる共同生活を営むべきゆえんの道でない。けれども時代の意識は朦朧(もうろう)として、なおこの至理に通徹するを得ず、一夫多妻の宿弊滔々(とうとう)たる時に、大胆にも基督(キリスト)(ちまた)獅子吼(ししく)して、一夫一婦論を提唱したのであったから、定めし一世の耳目を聳動(しょうどう)したと同時に、彼等の喜ぶところと為らなかったであろうと想う。(しか)も断じて行えば鬼神もこれを避く。彼がこの毅然(きぜん)たる勇気を振い起して、全欧州にこの教義を宣伝した結果は如何(いかん)。今日の欧州諸強国の文明の進歩とその富強とは決して単純なる科学の発達それのみとはいえぬ。(もと)づくところまたこの男女関係の粛清された一事が(あずか)って大いに力を為すものあるに()ると思う。即ち欧州の文明の進歩と富強とは、独り男子の努力に依らず、婦人との共力に()つものが(はなは)だ大であると思う。(しか)らば欧州全土はことごとく名実で全うして、一夫一婦制が実行されているかといえばそうはいかぬ。事情を探れば(すこぶ)る乱倫の行いもあり、公娼制度の行われているところもあれば私娼の如きは沢山に存在するというが如く、人類間に行われる一切の弊害の一として有らざる無しという有様であるけれども、概括的に言えば一夫一婦制が採用されているので、羅馬(ローマ)の帝室の権力に依り基督(キリスト)教が国教と定まりてより以来、この教義が道徳上に是認されて(あまね)く社会制度と結び、特に深く法律と結合したるその効果は偉大である。その他の事については、基督(キリスト)教の教義に疑うべきことも多くあるけれども、ただこの両性問題解決の一事に至っては、その偉功は顕著であって到底(とうてい)これを他教に求むべくも無い。

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