3話 〈上〉 三 松山まで
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高浜まで汽車は直ぐだ。汽車は『坊つちやん』がマツチの箱のやうと形容した通り、それに玩具のやうな汽鑵車がついてる。平凡で長閑な松山郊外は丁度、苗植付け前で田を牛で耕して居た。田の中に緑の饅頭を置いたやうなのが松山の城山。上に天主閣が箱庭の陶器みたいに小さく光つてる。緑の饅頭を取巻いて森、甍、白壁、塔、煙突、などが混み合つてる。松山市だ。平凡の中に何処か丸みと軽快と明るさと瓢逸を含んでる、中をこのおもちやの汽車でゆられ乍ら行く時は成程俳人が多く出る処だなと思ふ。松山ステーシヨンを降りると停車場前、広場にハイカラな石膏細工の女神かなんかの噴水があるので驚いた。先頃此所で共進会があつた遺物ださうな。その夜は大阪朝日新聞松山支局の松下君その他一名と風の無い旗亭の二階から夕焼雲の美くしいのを眺め乍ら晩餐を摂つた。女がハイカラ束髪に結つて東京で『まあ仰しやいよ』といふ場合の時に『ようをいらい』と尻目で睨む。あんまりこんなものを見てると『坊つちやん』や山嵐に張り倒されるだらう、直ぐ出て道後へ行つて泊つた。