雪柳

1話

702字 約1分 2012年10月13日 公開

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 小石川白山(はくさん)のあたりに家がある。小山弥作(やさく)氏、直槙(ちょくしん)は、筆者と同郷の出で、知人は(かれ)獅子屋(ししや)さんと渾名(あだな)した。誉過(ほめす)ぎたのでもありません、軽く扱ったのでもありません。

 氏神の祭礼に、東京で各町内、侠勇(きおい)御神輿(おみこし)(かつ)ぐとおなじように、金沢は、(ひさし)を越すほどの(ほろ)に、笛太鼓三味線(さみせん)囃子(はやし)を入れて、獅子を大練りに練って出ます。その獅子頭に、古来いわれが多い。あの町の獅子が出れば青空も雨となる。(いっぴょう)の風を()く。その町の獅子は日和を直す。が、まけるものか荒びは激しい、血を見なければ納まらないと、それを(ほこ)りとし名誉として、由緒ある宝物になっている。こういうのは、いずれ名ある仏師、木彫の達人の手になつたものであろうと思う。従って、不断この仕事があるわけではないので、亜流の職人が手間取にこしらえる。一種、郷土玩具(おみやげおもちゃ)の手頃な獅子があって、素材(しらき)づくりはもとより、漆黒で青い瞳、銀の(きば)、白い毛。朱丹にして、玉の瞳、金の牙、黒い毛。藍青(らんせい)にして、黒い牙、赤い毛。(たけ)き、(すさ)まじき、種々(いろいろ)で、ちょいとした棚の置物、床飾り、小児(こども)(もてあそ)ぶのは勿論の事。父祖代々この職人の家から、直槙は志を立てて、年紀(とし)十五六の時上京した。

 彫刻家にして近代の巨匠、千駄木(せんだぎ)の大師匠と呼ばれた、雲原明流氏の内弟子になり、いわゆるけずり小僧から仕込まれて、門下の逸材として世に知られるようになりました。――獅子屋というのはそうした訳で、人品もよし、腕も()えた。この人物が、四十を過ぎて、まのあたり、艶異(えんい)妖変(ようへん)な事実にぶつかった――ちと安価な広告じみますが、お許しを願って、その、直話(じきわ)をここに、記そうと思う。……

 ついては、さきだって、二つ三つ、お耳に入れておきたい話があります。

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