10話 中年者の幻想 四
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こう暖かくては雪もとけるだろう。いよいよスキーも駄目になる。僕等のようにスキーが好きで、而も一年に一度か二度しかスキーに行けぬ都会の勤め人は、どうしてもスキーの道具をいじったり、ビンディングの優劣を考えたりばかりするようになる。従ってセオリストになり、道具オンチになるが、これはやむを得ない。
赤城山のシャンツェで、諾威の選手や日本の選手が、秩父、高松両殿下にジャンプをお目にかけた時、ある新聞が「アプローチ君八十米を飛ぶ」という見出しで記事を載せた。日本人の名前にはさまって、ヘルセット、スネルスルード、コルテルード等の外国名が入って来るのだから、アプローチを外国選手の名前と考えたのであろうが、これはいさゝか世界記録的の間違いである。アプローチとは出発点から飛び台の踏切りまでをいうので、この長さが増せば飛ぶ時のはずみも増すから、飛跳距離も大きくなる。赤城の記事は三回飛んだ最後に、アプローチを八十米にしたら、A選手三十何米、B選手四十何米というのであった。この新聞の編輯者はそこを間違えたのである。
だが、如何にも間違えそうな間違いである。かく申す僕なんぞも、偶然このテクニカル・タームを知っていたから、こんなこともいえるが、専門以外のことは、どんな間違いをしているか判ったものでない。