17話 中年者の幻想 一一
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エドワード・エス・モース氏は明治十年から十六年にわたって、三度日本を訪れた生物学者で、同時に陶器の蒐集をした人であるが、同氏の著述「ジャパン・デー・バイ・デー」を読むと、日本人はみな正直で、杉憲や説教強盗はまるでいないようなことが書いてある。如何に太陽の黒点が活躍しなかった頃とはいえ、これ程日本がよかっとも思われない。日本が好きで、万事に同情を持って日本を見たから、このようなことに成ったのであろう。何にしてもうれしい話である。
日本人で外国へ行き、一から十まで外国をいゝと思う人とまるで外国をけなす人と、両方ある。が、それ等のどちらもが一致するのは、外国、殊に米国の辻便所その他に、楽書が無いということである。
僕の経験によっても、それは事実だ。便所の壁が、多くはツルツルしたタイル張りで、楽書が出来ぬというのも事実である。
ペンシルヴェニア鉄道でニュー・ジャーシイの首府トレントンへ行くと、この都のはずれに短いトンネルがあるが、そのトンネルの内部の楽書は、ひどく猥雑なものである。楽書は勿論他所にも沢山あるが、こゝは日本の旅行家が通るところだから、一例としてあげる。もっとも今は消したかも知れない。