鳥影

1話 鳥影

1,299字 約3分 2011年9月23日 公開

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 (あめ)()れた(あさ)である。修善寺(しゆぜんじ)温泉宿(をんせんやど)、――(くわん)家族(かぞく)一婦人(いちふじん)と、家内(かない)桂川(かつらがは)一本橋(いつぽんばし)(むか)うの花畑(はなばたけ)連立(つれだ)つて、次手(ついで)同家(どうけ)(ひかへ)別莊(べつさう)――あき()である――を()せて(もら)つた、と()つて(はな)した。花畑(はなばたけ)(わた)つてからだが、(はし)渡返(わたりかへ)して(くわん)(そと)まはりを《まは》つて()く。……去年(きよねん)(はる)ごろまでは、樹蔭(こかげ)(みち)で、戸田街道(とだかいだう)表通(おもてどほ)りへ土地(とち)(ひと)たちも勝手(かつて)通行(つうかう)したのだけれども、いまは橋際(はしぎは)木戸(きど)出來(でき)て、(くわん)構内(こうない)()つた。もとの(みち)を、おも()(へだ)てて(ひろ)空地(あきち)があつて、()つては(には)(つく)るのださうで、立樹(たちき)(あひだ)彼方此方(あちこち)(いし)澤山(たくさん)引込(ひきこ)んである。(かは)()つて(ふる)水車小屋(すゐしやごや)また茅葺(かやぶき)小屋(こや)もある。別莊(べつさう)はずつと()(おく)樹深(きぶか)(なか)()つて()るのを、(わたし)(こゝろ)づもりに()つて()る。總二階(そうにかい)十疊(じふでふ)八疊(はちでふ)の《まは》り(えん)で、階下(かいか)七間(なゝま)まで(かぞ)へて(ひろ)い。雨戸(あまど)をすつかり()けて()せられたが、(うら)(やま)(まへ)(なが)れ、まことに眺望(ながめ)()いと()ふ。……()りるつもりか、さては近頃(ちかごろ)工面(くめん)がいゝナなぞとおせきなさるまじく。(きやう)金閣寺(きんかくじ)をごらうじましたか、で(けん)ぶつをしたばかり。(うた)床柱(とこばしら)ではないが、別莊(べつさう)(には)は、垣根(かきね)つゞきに南天(なんてん)(はやし)()ひたいくらゐ、一面(いちめん)(かゞや)くが(ごと)紅顆(こうくわ)(とも)して、水晶(すゐしやう)()のやうださうで、(おく)濡縁(ぬれえん)(さき)古池(ふるいけ)(ひと)つ、(なか)(たひら)苔錆(こけさ)びた(いし)がある。

 其處(そこ)(うつく)しい(とり)()た。

 二羽(には)

「……それは綺麗(きれい)(とり)なんですよ、背中(せなか)(あを)いつたつて、(たゞ)(あを)いんぢやあないんです、(なん)とも()へません。(むね)(ところ)からぼつと(あか)くつてね、(なが)(くちばし)をして()るんです、向合(むきあ)つて。……其處(そこ)いらが(しづか)で、(だれ)(おどろ)かさないと()えて、(わたし)たちを()ても、()げないんですよ。(えん)からぢき其處(そこ)に――(もつと)も、あゝ綺麗(きれい)(とり)が、と()つて、雨戸(あまど)にも(そつ)加減(かげん)はしましたけれども。……(なん)()(とり)でせうね。(うち)(すゞめ)よりはずつと(おほ)きくつて、(はと)よりは、すらりと()せて小形(こがた)な。」

 と、あゝ、およしなされば()いのに、()りものの(かご)に、()つて()たしぼりの山茶花(さゞんくわ)(しろ)小菊(こぎく)突込(つツこ)んで、をかしく()(つま)んだり、(えだ)()いたり、飴細工(あめざいく)ではあるまいし……(つゐ)をなすものの(ひと)がらも(ちやう)()い。……朝餉(あさげ)()ますと、立處(たちどころ)(とこ)取直(とりなほ)して、勿體(もつたい)ない小春(こはる)のお天氣(てんき)に、(みづ)二階(にかい)まで(かゞや)かす日當(ひあた)りのまぶしさに、硝子戸(がらすど)障子(しやうじ)をしめて、長々(なが/\)掻卷(かいまき)した、これ()安湯治客(やすたうぢきやく)得意(とくい)(ところ)

宿(やど)(かた)()らないつて()ふんですがね、ちよい/\彼處(あそこ)()るんですつて、いつも、つがひで洒落(しや)れてるわね。(なん)でせう。」

 おや/\(はさみ)(おと)をさせた。あつかましい。が、(これ)にも似合(にあ)はう……川柳(せんりう)横本(よこぼん)(まくら)(はす)つかけに(あふ)ぎながら、

「あるきもしない、不精(ぶしやう)不精(ぶしやう)だと()ふけれど、()ながらにして()つてるぜ。かはせみさ、それは。」

「あゝ。」

()(あら)はすと、()(くわく)(おほ)い、翡翠(ひすゐ)とかいてね、お(まへ)たち……たちぢやあ他樣(ほかさま)失禮(しつれい)だ……お(まへ)なぞが()しがる(たま)とおんなじだ。」

 と()つて、おねだんのものの()にも()さない、うしろ(むき)圓髷(まるまげ)()た。

 (わたし)廣袖(どてら)(えり)()はせて()きた。

 鴛鴦(をしどり)濃艷(のうえん)でお(むつま)じい、が、()いたばかりで、翡翠(かはせみ)凄麗(せいれい)にして、()所帶(しよたい)意氣(いき)である。()たくなつた。

 (わたし)狩獵(しゆれふ)()らない。が、()ものでない、(やま)(さち)は、()姿(すがた)()、その、もの(がたり)()くのにある、と、(おも)ひつゝ。……

昭和三年一月

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