古事記 02 校註 古事記

21話 古事記 上つ卷 序并はせたり 〔天降〕

1,870字 約4分 2013年7月15日 公開

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 ここに天照らす大御神高木の神の命もちて、太子(ひつぎのみこ)正勝吾勝勝速日(まさかあかつかちはやび)天の忍穗耳(おしほみみ)の命に()りたまはく、「今葦原の中つ國を(ことむ)()へぬと白す。かれ言よさし賜へるまにまに、降りまして知らしめせ」とのりたまひき。ここにその太子正勝吾勝勝速日天の忍穗耳の命答へ白さく、「()は、降りなむ裝束(よそひ)せし(ほど)に、子()れましつ。名は天邇岐志國邇岐志(あめにぎしくににぎし)(あま)日高日子番(ひこひこほ)邇邇藝(ににぎ)の命、この子を降すべし」とまをしたまひき。この御子は、高木の神の女萬幡豐秋津師比賣(よろづはたとよあきつしひめ)の命に()ひて生みませる子、天の火明(ほあかり)の命、次に日子番(ひこほ)邇邇藝(ににぎ)の命二柱にます。ここを以ちて白したまふまにまに、日子番の邇邇藝の命に(みこと)(おほ)せて、「この豐葦原の水穗の國は、(いまし)()らさむ國なりとことよさしたまふ。かれ命のまにまに天降(あも)りますべし」とのりたまひき。

 ここに日子番の邇邇藝の命、天降(あも)りまさむとする時に、天の八衢(やちまた)一に居て、上は高天の原を()らし下は葦原の中つ國を光らす神ここにあり。かれここに天照らす大御神高木の神の命もちて、天の宇受賣(うずめ)の神に詔りたまはく、「(いまし)手弱女人(たわやめ)なれども、い(むか)ふ神と面勝(おもか)つ神なり二。かれもはら汝往きて問はまくは、()が御子の天降(あも)りまさむとする道に、誰そかくて居ると問へ」とのりたまひき。かれ問ひたまふ時に、答へ白さく、「僕は國つ神、名は猿田(さるだ)毘古の神なり。出で居る所以(ゆゑ)は、天つ神の御子天降りますと聞きしかば、御前(みさき)に仕へまつらむとして、まゐ向ひ(さもら)ふ」とまをしき。

 ここに(あめ)兒屋(こやね)の命、布刀玉(ふとだま)の命、天の宇受賣の命、伊斯許理度賣(いしこりどめ)の命、(たま)(おや)の命、并せて五伴(いつとも)()三を(あか)ち加へて、天降(あも)らしめたまひき。

 ここにその()ぎし四八尺(やさか)(まがたま)、鏡、また草薙(くさなぎ)の劒、また常世(とこよ)の思金の神、手力男(たぢからを)の神、天の石門別(いはとわけ)の神五を副へ賜ひて()りたまはくは、「これの鏡は、もはら()が御魂として、吾が御前を(いつ)くがごと、(いつ)きまつれ。次に思金の神は、(みまへ)(こと)を取り持ちて、(まつりごと)まをしたまへ六」とのりたまひき。

 この二柱の神は、拆く(くしろ)五十鈴(いすず)の宮七に(いつ)き祭る。次に登由宇氣(とゆうけ)の神、こは()つ宮の度相(わたらひ)にます神八なり。次に天の石戸別(いはとわけ)の神、またの名は櫛石(くしいはまど)の神といひ、またの名は(とよ)石の神九といふ。この神は御門(みかど)の神なり。次に手力男の神は、佐那(さな)(あがた)にませり。

 かれその天の兒屋の命は、中臣の連等が祖。布刀玉の命は、忌部の首等(おびとら)が祖。天の宇受賣の命は猿女(さるめ)の君等が祖。伊斯許理度賣の命は、鏡作の連等が祖。玉の祖の命は、玉の祖の連等が祖なり。

 かれここに天の日子番の邇邇藝の命、天の石位(いはくら)を離れ、天の八重多那雲(やへたなぐも)を押し分けて、稜威(いつ)()別き道別きて一〇、天の浮橋に、浮きじまり、そりたたして一一、竺紫(つくし)日向(ひむか)の高千穗の()じふる(たけ)一二に天降(あも)りましき。

 かれここに天の忍日(おしひ)の命(あま)久米(くめ)の命二人(ふたり)、天の石靫(いはゆき)一三を取り負ひ、頭椎(くぶつち)の大刀一四を取り佩き、天の波士弓(はじゆみ)を取り持ち、天の眞鹿兒矢(まかごや)手挾(たばさ)み、御前(みさき)に立ちて仕へまつりき。かれその天の忍日の命、こは大伴(おほとも)(むらじ)等が祖。天つ久米の命、こは久米の直等が祖なり。

 ここに詔りたまはく、「此地(ここ)は韓國に向ひ笠紗(かささ)御前(みさき)にま來通りて一五、朝日の(ただ)()す國、夕日の日照(ひで)る國なり。かれ此地(ここ)ぞいと吉き(ところ)」と詔りたまひて、底つ石根に宮柱太しり、高天の原に氷椽(ひぎ)高しりてましましき。

一 天上のわかれ道。

二 相對する神に顏で勝つ神だ。

三 五つの部族。トモノヲは人々の團體。この五神以下多くは皆天の岩戸の神話に出て、兩者の密接な關係にあることを示す。

四 岩戸の神話で天照らす大神を招いだ。

五 岩戸の神話における岩屋戸の神格。

六 天皇の御前にあつて政治をせよ。智惠思慮の神靈だからこのようにいう。

七 伊勢神宮の内宮。サククシロは、口のわれた腕輪の意で枕詞。

八 伊勢神宮の外宮。トユウケの神は豐受の神とも書き穀物の神。この神が從つて下つたともなく出たのは突然であるが豐葦原の水穗の神靈だから出したのである。外宮の鎭座は、雄略天皇の時代の事と傳える。

九 この二つの別名は、御門祭の祝詞に見える名で、門戸の神靈として尊んでいる。

一〇 天から御座を離れ雲をおし分け威勢よく道を別けて。

一一 天の階段から下に浮渚があつてそれにお立ちになつたと解されている。古語を語り傳えたもの。

一二 鹿兒島縣の霧島山の一峰、宮崎縣西臼杵郡など傳説地がある。思想的には大嘗祭の稻穗の上に下つたことである。

一三 堅固な靫。矢を入れて背負う。

一四 柄の頭がコブになつている大刀。實は石器だろう。

一五 外國に向つて笠紗の御前へ筋が通つて。カササの御前は、鹿兒島縣川邊郡の岬。高千穗の嶽の所在をその方面にありとする傳えから來たのであろう。

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