古事記 02 校註 古事記

20話 古事記 上つ卷 序并はせたり 〔國讓り〕

2,369字 約5分 2013年7月15日 公開

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 ここに天照らす大御神の詔りたまはく、「またいづれの神を遣はして()けむ」とのりたまひき。ここに思金の神また諸の神たち白さく、「天の安の河の河上の天の石屋(いはや)にます、名は伊都(いつ)尾羽張(をはばり)の神一、これ遣はすべし。もしまたこの神ならずは、その神の子建御雷(たけみかづち)()の神、これ遣はすべし。またその天の尾羽張の神は、天の安の河の水を(さかさま)()きあげて、道を塞き居れば、(あだ)し神はえ行かじ。かれ(こと)に天の迦久(かく)の神二を遣はして問ふべし」とまをしき。

 かれここに天の迦久の神を使はして、天の尾羽張の神に問ひたまふ時に答へ白さく、「(かしこ)し、仕へまつらむ。然れどもこの道には、()が子建御雷の神三を遣はすべし」とまをして、貢進(たてまつ)りき。

 ここに天の鳥船の神四を建御雷の神に副へて遣はす。ここを以ちてこの二神(ふたはしらのかみ)、出雲の國の伊耶佐(いざさ)小濱(をはま)五に降り到りて、十掬(とつか)の劒を拔きて浪の穗に逆に刺し立てて六、その劒の(さき)(あぐ)()て、その大國主の神に問ひたまひしく、「天照らす大御神高木の神の命もちて問の使せり。()(うしは)ける葦原の中つ國に、()が御子の知らさむ國と言よさしたまへり。かれ汝が心いかに」と問ひたまひき。ここに答へ白さく、「()はえ白さじ。我が子八重言代主(やへことしろぬし)の神七これ白すべし。然れども鳥の遊漁(あそびすなどり)八して、御大(みほ)(さき)に往きて、いまだ還り來ず」とまをしき。かれここに天の鳥船の神を遣はして、八重事代主の神を()し來て、問ひたまふ時に、その父の大神に語りて、「(かしこ)し。この國は天つ神の御子に(たてまつ)りたまへ」といひて、その船を蹈み傾けて、天の逆手(さかて)青柴垣(あをふしがき)にうち成して、隱りたまひき九。

 かれここにその大國主の神に問ひたまはく、「今汝が子事代主の神かく白しぬ。また白すべき子ありや」ととひたまひき。ここにまた白さく、「また我が子建御名方(たけみなかた)の神一〇あり。これを()きては無し」と、かく白したまふほどに、その建御名方の神、千引の石一一を手末(たなすゑ)に《ささ》げて來て、「()そ我が國に來て、(しの)び忍びかく物言ふ。然らば力競べせむ。かれ(あれ)まづその御手を取らむ一二」といひき。かれその御手を取らしむれば、すなはち立氷(たちび)に取り成し一三、また劒刃(つるぎは)に取り成しつ。かれここに(おそ)りて退()き居り。ここにその建御名方の神の手を取らむと乞ひ(わた)して取れば、若葦を取るがごと、《つか》み(ひし)ぎて、投げ離ちたまひしかば、すなはち逃げ()にき。かれ追ひ往きて、科野(しなの)の國の洲羽(すは)の海一四に()め到りて、殺さむとしたまふ時に、建御名方の神白さく、「(かしこ)し、()をな殺したまひそ。この(ところ)()きては、(あだ)(ところ)に行かじ。また我が父大國主の神の命に違はじ。八重事代主の神の(みこと)に違はじ。この葦原の中つ國は、天つ神の御子の命のまにまに獻らむ」とまをしき。

 かれ更にまた還り來て、その大國主の神に問ひたまひしく、「汝が子ども事代主の神、建御名方の神二神(ふたはしら)は、天つ神の御子の命のまにまに違はじと白しぬ。かれ()が心いかに」と問ひたまひき。ここに答へ白さく、「()が子ども二神の白せるまにまに、()も違はじ。この葦原の中つ國は、命のまにまに既に獻りぬ。ただ僕が住所(すみか)は、天つ神の御子の天つ日繼知らしめさむ、富足(とだ)る天の御巣(みす)の如一五、底つ石根に宮柱太しり、高天の原に氷木(ひぎ)高しりて治めたまはば、()(もも)足らず一六八十手(やそくまで)に隱りて(さもら)はむ一七。また僕が子ども百八十神(ももやそがみ)は八重事代主の神を御尾(さき)一八として仕へまつらば、違ふ神はあらじ」と、かく白して出雲の國の多藝志(たぎし)小濱(をばま)一九に、天の御舍(みあらか)二〇を造りて、水戸(みなと)の神の(ひこ)櫛八玉(くしやたま)の神膳夫(かしはで)二一となりて、天つ御饗(みあへ)二二獻る時に、()ぎ白して、櫛八玉の神鵜に()りて、(わた)の底に入りて、底の(はこ)()ひあがり出でて二三、天の八十平瓮(びらか)二四を作りて、海布()(から)()りて燧臼(ひきりうす)に作り、(こも)の柄を燧杵(ひきりぎね)に作りて、火を()り出でて二五まをさく、「この我が()れる火は、高天の原には、神産巣日御祖(かむむすびみおや)の命の富足(とだ)る天の新巣(にひす)凝烟(すす)八拳(やつか)垂るまで()き擧げ二六、(つち)の下は、底つ石根に燒き(こら)して、(たくなは)の千尋繩うち()へ二七、釣する海人(あま)が、口大の尾翼鱸(をはたすずき)二八さわさわに()きよせ()げて、(さき)竹のとををとををに二九、天の眞魚咋(まなぐひ)三〇獻る」とまをしき。かれ建御雷の神返りまゐ上りて、葦原の中つ國を言向(ことむ)(やは)しし状をまをしき。

一 イザナギの命の劒の神靈。水神。二四頁參照。

二 鹿の神靈。

三 二四頁參照。

四 二二頁參照。

五 島根縣出雲市附近の海岸。伊那佐の小濱とする傳えもある。日本書紀に五十田狹之小汀(いたさのをばま)

六 波の高みに劒先を上にして立てて。

七 言語に現れる神靈。大事を決するのに神意を伺い、その神意が言語によつて現れたことをこの神の言として傳える。八重は榮える意に冠する。

八 鳥を狩すること。

九 神意を述べ終つて、海を渡つて來た乘物を傾けて、逆手を打つて青い樹枝の垣に隱れた。逆手を打つは、手を下方に向けて打つことで呪術を行う時にする。青柴垣は神靈の座所。神靈が託宣をしてもとの神座に歸つたのである。

一〇 長野縣諏訪郡諏訪神社上社の祭神。この神に關することは日本書紀に無い。插入説話である。

一一 千人で引くような巨岩。

一二 手のつかみ合いをするのである。

一三 立つている氷のように感ずる。

一四 長野縣の諏訪湖。

一五 天皇がその位におつきになる尊い宮殿のように。神が宮殿造營を請求するのは託宣の定型の一である。

一六 枕詞。

一七 多くある物のすみに隱れておりましよう。

一八 指導者。

一九 島根縣出雲市の海岸。

二〇 宮殿。出雲大社のこと。その鎭座縁起。

二一 料理人。

二二 尊い御食事。

二三 海底の土を清淨としそれを取つて祭具を作る。

二四 多數の平たい皿。

二五 海藻の堅い部分を臼と杵とにして摩擦して火を作つて。

二六 富み榮える新築の家の煤のように長く垂れるほどに火をたき。

二七 楮の長い繩を延ばして。

二八 口の大きく、尾ひれの大きい鱸。

二九 魚のたわむ形容。さき竹のは枕詞。

三〇 尊い御馳走。

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