古事記 02 校註 古事記

23話 古事記 上つ卷 序并はせたり 〔木の花の佐久夜毘賣〕

1,080字 約2分 2013年7月15日 公開

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 ここに(あま)日高日子番(ひこひこほ)邇邇藝(ににぎ)の命、笠紗(かささ)御前(みさき)に、(かほよ)美人(をとめ)に遇ひたまひき。ここに、「誰が女ぞ」と問ひたまへば、答へ白さく、「大山津見(おほやまつみ)の神の女、名は神阿多都(かむあたつ)比賣一。またの名は()(はな)佐久夜(さくや)毘賣とまをす」とまをしたまひき。また「汝が兄弟(はらから)ありや」と問ひたまへば答へ白さく、「我が姉石長(いはなが)比賣あり」とまをしたまひき。ここに詔りたまはく、「吾、汝に目合(まぐはひ)せむと思ふはいかに」とのりたまへば答へ白さく、「()はえ白さじ。僕が父大山津見の神ぞ白さむ」とまをしたまひき。かれその父大山津見の神に乞ひに遣はしし時に、いたく歡喜(よろこ)びて、その姉石長(いはなが)比賣を副へて、百取(ももとり)机代(つくゑしろ)の物二を持たしめて奉り()しき。かれここにその姉は、いと(みにく)きに因りて、見(かしこ)みて、返し送りたまひて、ただその(おと)()(はな)佐久夜(さくや)賣毘を留めて、一宿(ひとよ)(みとあたは)しつ。ここに大山津見の神、石長(いはなが)比賣を返したまへるに因りて、いたく恥ぢて、白し送りて(まを)さく、「()が女二人(ふたり)竝べたてまつれる(ゆゑ)は、石長比賣を使はしては、天つ神の御子の(みいのち)は、雪()り風吹くとも、恆に(いは)の如く、常磐(ときは)堅磐(かきは)に動きなくましまさむ。また()(はな)佐久夜(さくや)毘賣を使はしては、木の花の榮ゆるがごと榮えまさむと、(うけ)ひて貢進(たてまつ)りき。ここに今石長(いはなが)比賣を返さしめて、()(はな)佐久夜(さくや)毘賣をひとり留めたまひつれば、天つ神の御子の御壽(みいのち)は、木の花のあまひのみましまさむとす」とまをしき。かれここを以ちて今に至るまで、天皇(すめらみこと)たちの御命長くまさざるなり。

 かれ後に()(はな)佐久夜(さくや)毘賣、まゐ出て白さく、「()(はら)みて、今(こう)む時になりぬ。こは天つ神の御子、(ひそか)に産みまつるべきにあらず。かれ(まを)す」とまをしたまひき。ここに詔りたまはく、「佐久夜毘賣、一宿(ひとよ)にや妊める。こは我が子にあらじ。かならず國つ神の子にあらむ」とのりたまひき。ここに答へ白さく、「吾が妊める子、もし國つ神の子ならば、(こう)む時(さき)くあらじ。もし天つ神の御子にまさば、幸くあらむ」とまをして、すなはち戸無し八尋殿三を作りて、その殿内(とのぬち)に入りて、(はに)もちて塗り(ふた)ぎて、産む時にあたりて、その殿に火を著けて四産みたまひき。かれその火の盛りに()ゆる時に、()れませる子の名は、火照(ほでり)の命こは隼人阿多の君の祖なり。次に生れませる子の名は火須勢理(ほすせり)の命五、次に生れませる子の御名は火遠理(ほをり)の命六、またの名は(あま)日高日子穗穗出見(ひこひこほほでみ)の命三柱。

一 アタは地名。鹿兒島縣日置郡。

二 多數の机上に乘せる物。

三 戸の無い大きな家屋。分娩のために特に家を作りその中に入つて周圍を塗り塞ぐ。

四 出産後にその産屋を燒く風習のあるのを、このように表現している。

五 火の衰える意の名。

六 火の靜まる意の名。

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