25話 古事記 上つ卷 序并はせたり 〔豐玉毘賣の命〕
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ここに海の神の女豐玉毘賣の命、みづからまゐ出て白さく、「妾すでに妊めるを、今産む時になりぬ。こを念ふに、天つ神の御子、海原に生みまつるべきにあらず、かれまゐ出きつ」とまをしき。ここにすなはちその海邊の波限に、鵜の羽を葺草にして、産殿を造りき。ここにその産殿、いまだ葺き合へねば、御腹の急きに忍へざりければ、産殿に入りましき。ここに産みます時にあたりて、その日子一ぢに白して言はく、「およそ他し國の人は、産む時になりては、本つ國の形になりて生むなり。かれ、妾も今本の身になりて産まむとす。願はくは妾をな見たまひそ」とまをしたまひき二。ここにその言を奇しと思ほして、そのまさに産みますを伺見たまへば、八尋鰐になりて、匍匐ひもこよひき三。すなはち見驚き畏みて、遁げ退きたまひき。ここに豐玉毘賣の命、その伺見たまひし事を知りて、うら恥しとおもほして、その御子を生み置きて白さく、「妾、恆は海道を通して、通はむと思ひき。然れども吾が形を伺見たまひしが、いと《はづか》しきこと」とまをして、すなはち海坂を塞きて、返り入りたまひき。ここを以ちてその産みませる御子に名づけて、天つ日高日子波限建鵜葺草葺合へずの命とまをす。然れども後には、その伺見たまひし御心を恨みつつも、戀ふる心にえ忍へずして、その御子を養しまつる縁に因りて、その弟玉依毘賣に附けて、歌獻りたまひき。その歌、
赤玉は 緒さへ光れど、
白玉の 君が裝し四
貴くありけり。 (歌謠番號八)
かれその日子答へ歌よみしたまひしく、
奧つ鳥五 鴨著く島に
我が率寢し 妹は忘れじ。
世の盡に。 (歌謠番號九)
かれ日子穗穗出見の命は、高千穗の宮に五百八拾歳ましましき。御陵はその高千穗の山の西にあり。
一 ヒコホホデミの命。
二 この種の説話の要素の一である女子の命ずる禁止であり、男子がその禁を破ることによつて別離になる。イザナミの命の黄泉訪問の神話にもこれがあつた。
三 大きなワニになつて這いまわつた。
四 白玉のような君の容儀。下のシは強意の助詞。
五 説明による枕詞。