知多の野間で

1話 一

427字 約1分 2021年11月17日 公開

読み方を変える
字の大きさ
行の間隔
1行の長さ
書体
配色
組み方

 知多半島の東浦から西浦に越えて行く路は、今までにないほどの興味を私に誘つた。『知多半島ツて、こんなところかなア、こんなに面白い地形とは思はなかつた』私はかう独語した。

 私は東浦の河和から車で越した。低山性の複雑した丘陵が、時には東を開き、南を開くといふやうな形を見せてゐたが、次第にのぼるにつれて、北も西もすつかり眼中に落ちて来た。その地平線の濶さ! 東浦も見えれば、西浦も見える。南の方には伊勢湾が開けて、その向うに朝熊(あさま)が高くなつて見えてゐる。伊良湖の鼻と神島と相対してゐる形もよく見える。私はこの他に何処にこれほど濶い、これほど変化に富んだ大きなシインを見たであらうか。否、更に北には遠く常滑(とこなめ)の土管工場が黒い煤烟を靡かせて、遙かに濃尾平野をさへ想像させたではないか。

『峠に行きますと、寒くなりますよ』

 かう車夫は言つたが、果してその通りであつた。海を越した鈴鹿山脈には、雪が白く、右に偏つて尨大(ばうだい)な伊吹山の半ば白くなつてゐるのが手に取るやうに見えた。

目次に戻る

目次