5話 五 箒澤の大杉
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火にあたゝまりながら午食して、歸路に就き、箒澤村にいたる。中川右岸の小村落にして、かねて、河内川流域の最奧の人里也。箒澤の大杉とて、このあたりに鳴りとゞろきたる杉の木あり。試みに傍の家より繩をかり來りて、はかりたるに、六抱半ありき。是と竝びて、可成り大なる杉あり。大さは三分の一ぐらゐなれど、高さは、やゝまされり。思ふに親杉の方は數百年間孤立して風雨と鬪ひし爲に、力を主もに根に用ゐて、幹は高くは成れざりしなるべし。子杉の方は、親杉の蔭に生ひたちたるを以て、根よりは、幹に力を注ぐことを得たる也。親杉ある間は、よし。親杉なくなれば、危き也。之を歴史上の人物にあてはむれば、平忠盛は親杉也、清盛は子杉也。清盛はまだ可成り根をはれり。宗盛に至りては、根の小さきひよろ/\杉也。
繩をかりたる家に就いて休息し、主人に向ひて、尼瀧の案外小なることを語れば、『そは下の瀧のみを見給へる也。まだ上に二つ三つあり。されど、他の溪より上りゆかざれば見えず』といふ。げに、この家に立ちよりてよかりき。然らずば、余が見たる下の瀧のみを尼瀑と思ひ込むべかりし也。