6話 四(2)
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寝る前に、漁夫達は垢でスルメのようにガバガバになったメリヤスやネルのシャツを脱いで、ストーヴの上に広げた。囲んでいるもの達が、炬燵のように各その端をもって、熱くしてからバタバタとほろった。ストーヴの上に虱や南京虫が落ちると、プツン、プツンと、音をたてて、人が焼ける時のような生ッ臭い臭いがした。熱くなると、居たまらなくなった虱が、シャツの縫目から、細かい沢山の足を夢中に動かして、出て来る。つまみ上げると、皮膚の脂肪ッぽいコロッとした身体の感触がゾッときた。かまきり虫のような、無気味な頭が、それと分る程肥えているのもいた。
「おい、端を持ってけれ」
褌の片端を持ってもらって、広げながら虱をとった。
漁夫は虱を口に入れて、前歯で、音をさせてつぶしたり、両方の拇指の爪で、爪が真赤になるまでつぶした。子供が汚い手をすぐ着物に拭くように、袢天の裾にぬぐうと、又始めた。――それでも然し眠れない。何処から出てくるか、夜通し虱と蚤と南京虫に責められる。いくらどうしても退治し尽されなかった。薄暗く、ジメジメしている棚に立っていると、すぐモゾモゾと何十匹もの蚤が脛を這い上ってきた。終いには、自分の体の何処かが腐ってでもいないのか、と思った。蛆や蠅に取りつかれている腐爛した「死体」ではないか、そんな不気味さを感じた。
お湯には、初め一日置きに入れた。身体が生ッ臭くよごれて仕様がなかった。然し一週間もすると、三日置きになり、一カ月位経つと、一週間一度。そしてとうとう月二回にされてしまった。水の濫費を防ぐためだった。然し、船長や監督は毎日お湯に入った。それは濫費にはならなかった。(!)――身体が蟹の汁で汚れる、それがそのまま何日も続く、それで虱か南京虫が湧かない「筈」がなかった。
褌を解くと、黒い粒々がこぼれ落ちた。褌をしめたあとが、赤くかたがついて、腹に輪を作った。そこがたまらなく掻ゆかった。寝ていると、ゴシゴシと身体をやけにかく音が何処からも起った。モゾモゾと小さいゼンマイのようなものが、身体の下側を走るかと思うと――刺す。その度に漁夫は身体をくねらし、寝返りを打った。然し又すぐ同じだった。それが朝まで続く。皮膚が皮癬のように、ザラザラになった。
「死に虱だべよ」
「んだ、丁度ええさ」
仕方なく、笑ってしまった。