『春と修羅』補遺

7話 旭川

379字 約1分 2000年10月4日 公開

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植民地風のこんな小馬車に

朝はやくひとり乗ることのたのしさ

「農事試験場まで行って下さい。」

「六条の十三丁目だ。」

馬の鈴は鳴り馭者は口を鳴らす。

黒布はゆれるしまるで十月の風だ。

一列馬をひく騎馬従卒のむれ、

この偶然の馬はハックニー

たてがみは火のやうにゆれる。

馬車の震動のこころよさ

この黒布はすべり過ぎた。

もっと引かないといけない

こんな小さな敏捷な馬を

朝早くから私は町をかけさす

それは必ず無上菩提にいたる

六条にいま曲れば

おゝ落葉松 落葉松 それから青く顫へるポプルス

この辺に来て大へん立派にやってゐる

殖民地風の官舎の一ならびや旭川中学校

馬車の屋根は黄と赤の縞で

もうほんたうにジプシイらしく

こんな小馬車を

誰がほしくないと云はうか。

乗馬の人が二人来る

そらが冷たく白いのに

この人は白い歯をむいて笑ってゐる。

バビロン柳、おほばことつめくさ。

みんなつめたい朝の露にみちてゐる。

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