3話 空襲警報(3)
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空襲をうけたといって、すぐ交通機関が停るようでは、ちょうど、手術にかかったとたんにお医者さまが卒倒したのと同じように、たいへんなことになる。
空襲下でも、交通機関は、できるだけ平常どおり動かさねばならぬ――と、鉄道大臣は、大きな覚悟をいいあらわした。
それは全くむつかしい仕事のうちでも、ことにむつかしい仕事であるのに、鉄道省は、見事にそれをやってのけた。……黒白もわかぬ暗黒の夜に、蛍火のような信号灯一つをたよりに、列車でもなんでも、ふだんと変わらぬ速さと変わらぬ時間で運転するなんて、神さまでも、ちょっとやれるとおっしゃらないだろう。
――これを実際にやってのけたのだから、日本の鉄道の人たちは天晴なものだった。踏切や町かどの交通整理を引受けて、働いた青年団員も、実に偉かった。
「おどろきましたねェ、まったく……」
と、辻村という商人体の乗客が口を開いた。列車の内はすべて電灯に紫布の被がかけられていた。
「国がどうなるかというドタン場に、こうも落ちつきはらって、自分の職場を守りつづけるなんて、イヤ、どうも日本人という国民はえらいですな」
「いや全く、そのとおりでさあ」
と職工らしいガッチリした身体の男があいづちをうって答えた。
「われわれの先祖が、神武天皇に従って東征にのぼったときからの大和魂ですよ。大和魂は現役軍人だけの持ものじゃない。われわれにだってありまさあ」
「われわれにも、チャンとありますかなァ。わたしなんかにゃ、どうも大和魂の持合せが少いんで恥ずかしいんですよ……」
といって頭をかいたが、
「どうです、親方。この汽車は今夜中このとおり、鎧戸をおろし、まっくらにして走るんですかね」
「いや、いまに非常管制がとけて、警戒管制にかえれば、窓もあけられますよ」
「警戒管制になるのはいつでしょうな」
「いまに車掌さんが知らせに来ますよ。それまでは、すこし蒸暑いが、我慢しましょうや」
「我慢しますが、わしはどうも暑いのには……いやどうも弱い日本人だ。……どうです、親方。暑さしのぎに、暗いけれど一つ将棋を一番、やりませんか」
「えッ、将棋!」
親方は太い眉をビクンと動かした。
「この空襲警報の中で将棋ですか。いやおどろいた。あんたも弱い日本人じゃない。おそれいったる度胸。これァ面白い。さしあたり用もないから、じゃ生死の境に一番さしましょうか。これァ面白い。はッはッはッ」
辻村商人氏が、トランクから小さい将棋盤を出してきた。トランクを向かいあった二人の膝の上に渡し、その上に盤をおいた。そして駒をパチパチ並べはじめた。そのときまでの、この車内の光景ときたら、婦人や子供といわず、堂々たる若者たちまでが、本物の爆弾投下のものすごさにおびえて、すっかり度を失っていたのだ。ある大学生はブルブル慄えながらナムアミダブツを唱え、三人づれの洋装をした女たちは恐怖のあまり、あらぬことを口走っていた。列車の窓から外へ飛び出そうとする母親を子供たちが引留めようと一生けんめいになっていた。まるで動物園の狐のように車内をあっちへいったり、こっちへいったり、ウロウロしている会社員らしい男もあった。
「ああ呆れた。あそこを見なよ。この騒のなかに呑気な顔をして将棋をさしている奴がいるぜ。ホラ、あそこんとこを見てみろ……」
登山がえりらしい学生の一団の中から、頓狂な声がひびいた。――「将棋をさしている奴がいる」
その声に、室内の人々はあッとおどろいて、学生の指さす方角を覗きこんだ。
「さて残念! あいにくと銀がないわい……」
辻村氏は顔を真赤にして、毛のうすい頭からボッボッと湯気をたてていた。
「あッはッはッ。これァ愉快だッ」
学生団がドッと笑いだすと、いままで取り乱していた連中も、我に返ったように、おとなしくなった。そして、ほっとした色と一緒に元気が浮かびあがってきた。防毒面をとりもせず、座席の片隅に小さくなっていた旗男少年も、落ちつきと元気を取り戻した一人だった。そして、将棋さし二人男のほうをつくづくみていたが、急に飛びあがった。
「ああ、鍛冶屋のおじさんだ、兼吉君のお父さんだッ」
それは旗男の東京の家の崖下に、小さな工場を持っている鍛冶屋の大将鉄造さんだった。
旗男は「おじさんおじさん」と叫ぶと、いきなり、鉄造のガッチリした胸にとびついた。
「うわーッ」
と、さすがに後備軍曹の肩書を持つ鍛冶屋の大将も、不意うちに、防毒面をかぶった変な生物にとびつかれ胆をつぶした。膝の上にのっていた将棋盤も、ポーンと宙にはねあがった。いまや王手飛車とりの角を盤面に打ちこもうとしたエビス顔の辻村氏の頭の上に、将棋の駒がバラバラと降ってきた。おどろくまいことか、彼氏の金切声――。
「うわーッ、爆弾にやられたッ……」
毒瓦斯地帯
旗男は、思いがけなく親友のお父さんに会って、それこそ地獄で仏さまに会った思だった。鉄造は横に座席をあけてくれた。
「どうも、歩が一枚足りない……」
辻村氏は、腰掛の下にはいこんで、なくなった駒をさがしまわっていた。
「ああ、うちの赤ン坊が、手にもって、しゃぶっていましたよ」
そういって、女が、さっきの騒をまるで忘れてしまったような顔つきで、将棋の駒を返してよこした。車内はすっかり落ちつきを取りかえしていた。呑気な将棋が、救いの神だったのだ。
野尻湖近くの田口駅をすぎた頃、客車のしきりの扉が開いて、車掌がきんちょうした顔をして入ってきた。
「エエ、皆さんに申しあげます……」
車内の一同は、すわ、なにごとが起ったかと、車掌の顔を見つめた。
「エエ、ただ今非常管制がとかれて、警戒管制に入りましたが、警報によりますと、これから先に、だいぶ毒瓦斯を撒かれたところがあるようでございます。殊に一時間程のちに通過いたします長野市附近の如きは、窒素性のホスゲン瓦斯を落されたということでありました。そういうわけで、この列車も、毒瓦斯が車内に入ってくるのを防ぎますため、車窓も換気窓も、それから出入口の扉も絶対にお開けにならぬように願います。もちろん鎧戸の外には硝子戸を閉めていただきます。それから扉の隙間などには、眼張をしていただきます。眼張の材料が十分でございませんので、一つ皆さんで御相談の上、適当にやっていただきます」
これを聞いて、乗客たちは又色を失った。いよいよたいへんなことになった。この列車は毒瓦斯の中を通ることになったのだ。
「車掌さん、防毒面は貸してくれないのですか」
学生団から不安にみちた声がした。
「どうも配給がありませんので……」
「オイ車掌君。金はいくらでも出す。至急、防毒面を買ってくれたまえ」
一人の紳士があたり憚らない声をだした。
「お気の毒さまで……。室全体の防毒で、御辛抱ねがいます」
「じゃ君に百円あげる。拝むから、ぜひ一つ手に入れてくれたまえ」
紳士は泣きだしそうな顔で紙入をだした。
「お断りします」
車掌はキッパリいって、次の車室へドンドン歩いていった。
「おお、そこの子供くん。君は可愛い子だ」
と、紳士は旗男のところへヨロヨロと近づいた。
「二百円あげるから、その防毒面を売ってくれたまえ。私は肺が悪い、病人だ。ね、売ってくれるだろう。三百円でもいい」
旗男は困ってしまった。すると隣に腰をかけていた鍛冶屋の大将が、旗男をかばうようにしたかと思うと、食いつきそうな顔で紳士をにらみつけた。
「この馬鹿野郎!」
その破鐘のような声に吹きとばされたか、がりがり亡者の紳士は腰掛の間に尻餅をついた。
それに構わず、鍛冶屋さんはすっと立ちあがった。
「さあ皆さん。毒瓦斯を防ぐとなると、お互さまに知らぬ顔をしていられません。みんなで力を合わせて、この室を早く瓦斯避難室にしなければなりません。私は東京品川区の五反田では防護団の班長をしています。後備軍曹で、職業は鍛冶屋です……」
飛んだところまで口をすべらせるので、辻村氏があきれて、下から鍛冶屋の大将の服をひっぱった。
「……で、とにかく私が指揮しますが、文句はありませんか」
「委せるぞう……、よろしく頼むゥ……」
という声がかかって、鉄造は大満足だった。
「じゃ、まず眼張の材料だ。みなさん、使ってもいいだけの紙と布と、弁当の残りの飯とを出してください。その顔の長い学生君は紙係、青いネクタイの方は布係、その水兵服の娘さんは弁当飯係。すぐ集めにかかってください」
誰もいやな顔をしなかった。なにしろ、毒瓦斯だ。ぐずぐずしてはいられない。
材料は集った。それを手頃の大きさに裂く係ができ、材料を分ける係ができ、そしていよいよ全員が手分をして、眼張作業が始まった。紙と布とを飯粒で幾重にも隙間に張りかさねるのだった。例の紳士も、命ぜられて飯粒を盛んにこねまわしていた。この協力のかいあって、僅か十分たらずで眼張ができあがった。なお軍曹は毛布とシーツとを集めて出入口の扉よりすこし中へ入ったところに仕切りの幕をつくった。間違って出入口が開いても、毒瓦斯はこの幕で一時食いとめられる仕掛にして、そこには学生を二人ずつ、番兵につけた。
彼等はピッケルを、小銃のように持って警備についた。こうして全く安心のできる簡易瓦斯避難室ができあがった。
婦人たちは、いずれもニコニコ顔で、車内をなんべんも見まわした。
列車が、柏原駅についたとき、指揮をしていた鍛冶屋の大将は、なにを思ったものか、つと扉をあけて、プラットホームへ下りた。どこへ行ったんだろう?
やがて列車はガタンゴトンと動きだした。しかし鍛冶屋の大将はどうしたのか、車内に姿をあらわさなかった。同室の人たちの顔には不安の色が浮かびあがった。
急造の防毒面
「どうしたんだろうな、われ等の防護団長は……」
と、商人辻村氏が、遂に心配の声をあげた。そのとき出入口の扉が、ガラリと開く音がきこえ、そして、毛布の幕の間から姿をあらわしたのは、案じていた鍛冶屋の大将だった。見れば両手に大きな新聞紙包を抱えている。中からゴロゴロ転がり落ちたのを見れば、なんとそれは木炭だった。
「炭なんか持って来て……お前さん、この暑いのに火を起す気かネ」
辻村氏の顔を見て、鉄造は首を横にふった。
「牛乳、ビール、サイダーの空壜を集めてください」
妙な物を注文した。――やがて七、八本の空壜が、鉄造の前にならんだ。
炭は女づれのところへ廻され、学生のピッケルを借りて、こまかく砕くことを命じた。一人の奥さんの指から、ルビーの指環が借りられ、それを使って、硝子壜の下部に小さな傷をつけた。それから登山隊の連中から蝋燭が借りられた。灯をつけると、硝子壜の傷をあぶった。ピーンと壜に割目が入った。壜をグルグル廻してゆくと、しまいに壜の底がきれいに取れた。一同は固唾をのんで鍛冶屋の大将の手許を見ている。
彼はポケットから綿をつかみだした。炭と綿とは、駅の宿直室から集めてきたのだった。――綿をのばしたのを三枚、抜けた壜底から上の方へ押しこんだ。
「炭をあたためて水気を無くし、活性炭にすれば一番いいのだが今はそんな余裕もないから……」
といいながら小さくした堅炭をドンドン中へつめこんだ。そしてまた底の方をすこしすかせ、綿を三枚ほど重ねて蓋をした。そうしておいて壜底を、使いのこりの布で包み、その上を長い紐で何回もグルグル巻いてしばった。
「さあ、これでいい。――みんな手を分けてこのとおり作るんだ」
辻村氏が、目をクルクルさせ、その炭のつまった壜を高くさしあげて、
「団長、これは何のまじないだい」
「まじないという奴があるものか。これは防毒面の代用になる防毒壜だ」
「へえ、防毒面の代り? こんな壜が、どうして代りになるのか、わからないねェ。第一これじゃ、顔にはまらない」
「あたりまえだ。顔にはまるものか。……しかし、こうして壜の口を口にくわえればいい。口で呼吸をするのだ。鼻は針金をこんな風にまげ、こいつで上から挟みつけて、鼻からは呼吸ができないようにする。こうすれば毒瓦斯は脱脂綿と炭に吸われて口の中には入ってこない」
「なるほど、こいつは考えたね」
「形は滑稽だが、これでも猛烈に濃いホスゲン瓦斯の中で正味一時間ぐらい、風に散ってすこし薄くなった瓦斯なら三、四時間ぐらいはもつ。立派な防毒面が手に入らないときは、これで一時はしのげるわけさ……」
「な、なァる……」
そのとき、扉がガラリと開いた。車掌が入ってきて目を輝かせた。
「これはこれは、この部屋は大出来ですね。よくやって下すった。これなら大丈夫でしょう」
車掌はいく度も室内をみまわしながら、次の車室へ向かった。
それから十分ののち、列車内には毒瓦斯警報が出た。いよいよ恐ろしき毒瓦斯地帯へ、音もなく滑りこんだ。車室内の全員は、さすがに黙って、鼻に全神経をあつめた。
一分、二分、三分……。今にもホスゲン瓦斯の堆肥に似た臭が鼻をつくかと心配されたが、四分たち、五分たっても、なんの変った臭もして来ず呼吸はふだんと変りなくたいへん楽であった。
(ああ、助かった!)
室内の誰もが、自分の胸のうちで、同じ事を叫んだ。そうだ、助ったのである。みんなは恩人である鍛冶屋の大将の方をふりむいた。かの大将は、急造の防護壜を前に並べて、腕ぐみをし、大きな鼻を豚のようにブウブウ鳴らしていた。その時だった。後の車室の方で、にわかに、ただならぬざわめきが聞えてきた。続いて、何かドタンドタンと大きな物がぶったおれるような物音がした。ガタガタガタンと、あわてて扉を引きあける音がして、とたんにヒイヒイと獣が泣くような気味の悪い声が近づいて来た。
帝都は間近し
「助けて、た、たすけてえ」
と、ひどくしゃがれた声が……。
室内の人たちは、一せいに入口の方に眼を注いだ。毛布の幕の聞から、ゴロリと転げこんできたのは、スポーツマンらしい大きな男だったが、顔色は紙のように白く大きな口をあけてあえぎながら、両手でしきりに咽喉のところをかきむしっていた。まさしく、毒瓦斯に中毒していることが一眼でわかった。鍛冶屋の大将はまっさきに立ちあがって、その男のそばにかけつけた。
「た、助けてやって、くれたまえ。こ……後車は毒瓦斯がたいへん、だッ……」
とまでいうと、彼ははげしく咳いった。
鍛冶屋の大将は、
「よォシ、助けてやるぞ」
と叫ぶなり、一座を見わたして、学生を五人ほど指名した。
「さあ、あの防毒壜をくわえて、助けにゆくんだ」
旗男も、防毒面を被りなおした。
学生たちは、鼻の穴に思い思いの栓をした。或者は、消しゴムを切ったものをつめたり、また或者は万年筆のキャップをつっこんだり、それから、また或者は一時の間にあわせに、綿栓をこしらえ唾でしめして鼻孔に挿した。
そうしておいて、鍛冶屋の大将を手本にして、防毒壜を口にくわえた。それは奇妙な格好だった。だが誰も笑う者はなかった。尊い勇士たちの出陣だから……。
後車へ飛びこんでみると、そのむごたらしさは筆紙につくされないほど、ひどかった。とても、ここに書きしるす勇気がない。どうしてそんなにひどいことになったかというと、結局、その車室の目張が、言訳的におそまつにしてあり、それも力を合わせず、めいめい勝手にやったための失敗だった。彼等は、毒瓦斯をあまりにも馬鹿にしていたのだった。
七勇士は、できるだけ彼等を助けたけれど、結局、すぐ元気にかえったものはごくわずかだった。多くは、もう胸にひどい炎症が起り、苦悶はひどくなってゆく一方だった。
壜をくわえた勇士たちが、やがて部屋へ帰ってきて、口から壜を放したときには、皆いいあわせたように顔をしかめ、歯をおさえて、口をきく者もなかった。
「どうもつらい防毒面だ……」
やっと一人が口をきいた。他の勇士は、いたみとおかしさとの板ばさみになって、苦しそうに笑った。
「何しろ、我輩が発明したばかりの防毒面だからこたえたんだよ」
と鉄造は口の上から歯をもみながらいった。
「皆さん、お互に今後は、せめて直結式の市民用防毒面ぐらいはもっていることにしましょう。あれなら、この五倍ももつ。今くらいの薄いホスゲンなら五十時間の上、大丈夫だ」
「そいつは、どの位出せば買えるかね」
「安いものですよ。たしか、六、七円だと思ったがね」
「六、七円? そりゃ安い。山登を一回やめれば買えるんだ」
「僕は、さっきこのおじさんに教わったように炭と綿とを使って、もっと楽に口につけられるような防毒面を自分で作るよ。断然、その方が安いからな」
「でも、保つ時間が短いよ」
「なァに、換えられるような式にして、三つか四つ炭と綿の入った缶を用意しておけばいいじゃないか」
「僕はその上、水中眼鏡をかけて、催涙瓦斯を防げるようにしようかな」
若い人たちの間には、防毒面の座談会が始まった。同室の人たちは、横から熱心にそれを聞いていた。そしてめいめいの心の中に思った。――
(今度東京へ帰ったら、まっ先に防毒面を手に入れよう……)と。
それから間もなく、毒瓦斯地帯を無事に通過することができた。
「篠ノ井、篠ノ井……」
と駅夫のよぶ声が聞えてきた。もう毒瓦斯がない証拠だ。窓は明けはなたれた。そとから涼しい、そして林檎のようにおいしい(と感じた)空気がソヨソヨと入ってきて、乗客たちに生き返った思をさせた。
車内の死者と中毒者とは、この篠ノ井でおろした。駅夫の話によると、夥しい毒瓦斯弾のお見舞をうけた長野市附近は、相当ひどいことになったらしかった。そこでも、平生の用意が足りなかったわけだ。
列車は、また警戒管制の夜の闇のなかにゴトゴト動きだしていった。――安心したのか、それとも活動に疲れたのか、例の勇士をはじめ、車中の人たちは、枕をならべて深い睡りにおちていった。高崎駅を過ぎるころ、夜が明けた。
しかし車中の人たちは、上野駅ちかくになって、やっと眼を覚ました。
車窓から眺める大東京!
帝都の風景は、見たところ、どこも変っていなかった。焼夷弾や破甲弾、さては毒瓦斯弾などにやられて、相当ひどい有様になっていることだろうという気がしていたが、意外にも帝都は針でついたほどの傷も負っていなかった。昨夜、悪戦苦闘した乗客たちは、何だか、まだ夢を見ているのではないかという気がしてならなかった。
だが本当のところ、帝都は昨夜、遂に敵機の空襲を迎えずにすんだのであった。帝都の四周を守る防空飛行隊と、高射砲の偉力とは、ついに敵機の侵入を完全に食いとめることができたのだった。
しかし、世界第一を誇るS国の大空軍を果していつまでも、完全に食いとめられるものであろうか、どうか。
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東部防衛司令部