14話 第二、豪州紀行 一四、市外の実況
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五日、また快晴。船医秋洲長美氏とともに車行して、クロイドン村なる総領事の宅を訪い、さらに車行してパラマッタ町に至る。小市街なり。行程十四マイルあり。さらに馬車に駕し、悪道二マイル余をむちうちて、津頭に達す。これ輪船の起点なり。これより屈曲せる河流を下りてシドニーに着す。両岸の風光自然に秋色を帯び、林間の瓦壁、黄葉と相映ずるところ、大いに吟賞するに足る。
一帯清流曲幾回、千涯秋影入舟来、風光自与故山異、黄葉林間瓦壁堆。
(帯のように清らかな流れが曲折し、高い崖の秋の気配が舟にしのびよる。風景はおのずから故郷の山とは異なり、黄ばんだ葉のある林間に瓦の壁がたちふさがっている。)
午後三時帰船。小憩の後、市川純一氏の招待により、斎藤総領事、八木船長およびバクスター氏とともにホテルオーストラリアにおいて会食し、かつ演劇をみるの好意をかたじけのうす。海外においての観劇は、これを第三回とす。市川氏にはさきにインド・ボンベイにおいてはじめて相知り、ここに九年を隔てて、さらに豪州において再会を得たるは奇遇というべし。一詩を賦してその歓を述ぶ。
一別以来已十霜、西天夢跡去茫茫、濠陽今日再相会、依旧喜君心自芳。
(ひとたび別れて以来、すでに十年、印度の空に描いた夢のあともはるかなものとなった。豪州の東で今日再会し、かつての君の心が芳ばしくそのままであることを喜ぶ。)
別にシドニー客中所感の小詩一首あり。
看花時去国、五月到濠南、春夢猶如昨、客庭秋已酣。
(花見の時節に故国を去り、五月には豪州の南部に至った。春の夜の夢は昨日のように思いおこされるが、いま旅宿の庭は秋もたけなわである。)
六日、また快晴。早朝、歩を市街に散ずるに、救世軍の一行(みな婦人)、各街角に銭函を携えて佇立し、来往の人に一ペンスずつ恵与を請う。懐中の銅貨たちまち空となる。また、犬の背上に銭函を結び付け、無言の動物をして人に代わりて恵金を請わしむるもあり。これ新意匠なり。午前十一時出港。開南丸が旭旗を晴風に翻して湾内にあるを見る。二百トンの小艇なり。海上風なく波平らかにして、春海のごとし。ほかの汽船と並行して南走す。
五月七日(日曜)、曇り。暁天、虹影を見る。風ようやく寒く、天まさに雨ふらんとす。一帯の連山を右岸に望む。これ、すでにビクトリア州なり。午後、降雨あり。今夕、船医秋洲氏の好意により、牛鍋会を催す。一酔の後、戯れに「ヤギと聞き羊ならんと思ひしが、日光丸の大船長」の狂歌を船長に贈り、
日光船内有名医、吾始遇君如旧知、濠気堂堂誰得敵、秋津洲裏一男児。
(日光丸の船内には名医がいて、私ははじめて会ったのに旧知の人の思いがした。豪気の持ち主で堂々としてだれもかなわない。日本国の一男児である。)
の狂詩を船医に贈り、もって告別の辞に代う。