30話 第四、英国行日記 三〇、船中の英王戴冠式および赤道祭
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二十一日、快晴。平穏連日のごとし。今日より船中に浴泳場を設け、毎朝随意に浴泳せしむ。日光は炎々たるも、これを遮蔽せる場所は清風入り来たりて清涼を覚ゆ。午時、汽船と近く相接す。ドイツ船なりという。夜に入りて、英王戴冠式を祝するために合奏会あり。
二十二日、晴れ。終日無風、しかもはなはだしく暑からず。午前十時四十分、甲板上にて戴冠式の祝典を開催せられ、唱歌および祈請あり。午後一時四十分、祝砲を発火し、船長より無線電信をもって英王へ向け祝電を発送す。晩食後煙火あり、引き続き舞踏会ありて深更に及ぶ。
二十三日、晴れ。同じく平穏無風、炎威ようやく強し。喜望峰を去りて二日間海鵝を見たりしが、その後また見ず。午後、乗客中豪州人と南アフリカ人と両方に相分かれ、綱引きの大競争をなし、豪州人の勝利に帰す。
日落南溟風未生、汽煙直立一船横、客牀夜半眠難熟、苦熱人攀甲板行。
(日が沈んで南の果てに風はまだ起こらず、汽船の吐き出す煙もまっすぐに立ちのぼって船の所在を示す。船客のベッドは真夜中になっても熟睡できぬ。それ故に暑さに苦しむ人は甲板にあがってすごすのである。)
二十四日、炎晴。朝来風なく、汽煙直立す。海面にさざなみをただよわすは、風の力にあらずして、潮流あるためならん。赤日炎々、はじめて酷暑を覚ゆ。当夜十一時、赤道を横断して北半球に入る。
客衣欲払二洲塵、更向西欧転此身、一夜報来過赤道、喜吾復作北球人。
(旅の衣服についた豪州とアフリカ南部の塵をうち払いたいと願って、さらに西欧に向かってこの身を運ぼうとしている。一夜赤道を越えたというしらせがきて、自分がふたたび北半球の人となったことを喜ぶ。)
詩中二州とは、豪州と南アフリカをいう。
六月二十五日(日曜)、晴れ。軟風船に入りて清涼なり。暑気は前回赤道を横断せしときほどに強からず。天晴るるも空気は湿気を帯び、夕日はマニラ海のごとくに紅を流さず。ゆえに、晩景の目をたのしましむるなし。朝夕二回、甲板上にて礼拝式あり。
二十六日、晴れ。終日、清風船を送り来たり、甲板上に踞すれば、ほとんど炎熱を覚えず。午前十時、船客中十余人、仮装して海神ネプチューンの行列をなし、裁判を開き、有罪と認むるものを水中に投ずる古例の祭式を擬し、大いに喝采を博す。毎回赤道を一過するときに、船中の余興にこれを行うという。午後三回汽船を見る。
南進舟踰赤道回、欲除残熱晩銜杯、酔余一枕涼如湧、風自大西洋外来。
(南に向かって進んだ船は赤道をこえてかえり、余熱をとり除こうとしておそくに杯を傾けた。酔った後にベッドに横になれば涼気が湧くがごとく感じられ、その風は大西洋のかなたからくるのである。)