南半球五万哩

31話 第四、英国行日記 三一、大西洋の熱帯および孤島

1,360字 約3分 2011年10月25日 公開

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 二十七日、曇り。夜来驟雨あり、四面雲とざして遠望するあたわず。風位は西北風にして、船中暑さを知らず。午後、無数のイルカ魚(英語ポーパス)の列を成し、船にそいて進むを見る。船中無聊のあまり、喜望峰出航以来、毎日ただ白雲に対して客懐を寄するの意を述べたる七律を賦す。

未飽南阿尽処遊、与船有約向欧洲、月残喜望峰頭暁、風冷大西洋上秋、旭影生霓知雨到、星光入水見波収、二旬無物迎吾意、只対白雲寄客愁。

(アフリカ)南部の窮まる地を遊歴することに飽きたわけではないが、客船の予約によって欧州に向かう。残月の喜望峰上のあかつき、風冷ややかな大西洋上の秋、旭光は虹を作って雨の来たるを知り、星影が水にうつって波の静かなるを見る。二十日余り私の意をみたすものにも遇わず、ただ白雲について旅愁を思うのみである。)

 赤道直下は短日にして、午後六時半には全く暗黒となる。昨今月なく夜暗きも、明星の光を水上に流すありさまは、月夜を欺かんとするほどなり。

 二十八日、晴れ。北風涼をもたらし、朝夕秋冷を覚ゆ。午時、飛魚の群れをなして波上を飛行せるを見る。また長途の一興なり。当夕、合奏会あり。

 二十九日、快晴。北風ようやく強く、海面白波をあぐ。満船の清風、人をして夏を忘れしむ。正午太陽を望むに、ほとんど天頂にあるがごとし。暮天一鉤の新月を望むところ、大いに雅趣あり。終日片雲なきも、水蒸気の空中に満つるありて、清朗ならず。春天朦朧の観あり。

船出南球入北球、潮風洗熱夏如秋熱夏如秋」はママ]、暮天難禁吟情動、百尺檣頭月一鉤。

(船は南半球より北半球に入り、潮風は暑熱を洗い落として夏にもかかわらず秋の気候のようである。日暮れて詩情のかきたてられるのを止めがたく、なにしろ百尺の高い帆柱の上には鎌のような月がかかっているのだ。)

 三十日、晴れ。午前中に熱帯をこえて暖帯に入る。正午、北緯二十四度にあり。太陽は少しく南方に傾き、日陰をやや北方に見るに至る。風力、風位ともに前日のごとし。船これに逆行して北進す。夜に入りて船客の行列あり。種々異様の装いをなし、女が男に化し、男が女となり、あるいは黒奴を擬し、あるいはインド人をかたどり、あるいは日本婦人をまねるあり、あるいは車夫、あるいは巡査、あるいは郵丁を模擬する等、すこぶる奇装を競い、笑声沸くがごとし。後に投票を行い、その多数を得たるものに賞品を与えり。これまた船中の閑散無事を破る良案なり。

 七月一日、曇り。北風いよいよ強く、白浪海面に連なるも、船の揺動するに至らず。朝来、カナリア群島の間に入る。雲気のために右方の島を望むことを得ざるも、左方のテネリフェ島の山容には近く接するを得たり。この島は全く高山によりて成り、その最高峰はわが富士山と同じく海抜一万二千尺ありというも、雲煙に閉じられて望むことを得ざるは遺憾なりとす。ここに陸地を見たるは十五日目なれば、船客みな旧知に再会せる心地をなす。この島内に三千年を経たる竜樹(ドラゴンツリー)ありという。午時、帆船二隻、汽船一隻に逢遇す。当日、一首を浮かぶ。

漠漠雲烟繞客舟、模糊影裏一峰浮、葡山未近英巒遠、知是加南利亜洲。

(遠くはるかに連なる雲ともやが客船をとじこめ、ぼんやりとしたなかに一つの峰が浮かぶ。(ポルトガル)の山は遠く、英国の山々も遠い、とすればここは加南利亜(カナリア)諸島なのである。)

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