南半球五万哩

37話 第五、北極海観光日記 三七、ノルウェーの連山

1,401字 約3分 2011年10月25日 公開

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 八月二十三日(日曜)、晴れ。午前礼拝式あり。列席者約百名。席上、慈善金を集めしに、たちどころに七十三円を得たり。風位一変、南方より微風を送り来たり、暖気ようやく加わる。汽煙直立せるに、海面に多少の波動を見るは潮流のためならん。正午、北緯六十度三十六分の地点に達す。露都よりも北位にあり。午後四時に至り、ノルウェーの連山に接す。五時、汽船および漁舟を見る。沿岸一帯すべて突兀せる石山のみ。おのおの異様の地勢を有す。その高さ海抜一千尺ないし二千尺くらいに過ぎざるも、峰頂残雪の点在するを認む。山麓に細草を見るも、樹木に乏し。海岸は湾曲すこぶる多く、ほとんど幾折なるを知らず。夜十時に至りようやく太陽を失うも、天なお明らかにして昼のごとく、星光力を失い、ただ二個の星宿を認むるのみ。夜半試みに書をひらきて検するに、四号文字はもちろん、五号文字もやや読み得るなり。当日の寒暖は昼間六十度以上、夜間五十五、六度なるを覚ゆ。

 二十四日、晴れ。午前十時、船トロンヘイム港に入る。その前後すべて群巒列島の間を縫いて航行す。両岸の風光は、わが内海の勝も三舎を避くるほどなり。港口に着するや、軽舟に移りて上陸す。当州第三位におる都会なり。

第一は首府クリスチャニア市   人口二十二万六千五百人

第二はベルゲン市        人口八万六千人

第三はトロンヘイム市      人口三万八千二百人

 市街は一面湾を抱き、三面丘山をめぐらし、湾外は群嶼屏立し、すこぶる風致に富む。市内の壮観は中央街路の尽頭に立てる大寺院なれども、目下修繕中にて閉鎖せり。その境内に墓地あり。その墓碑はわが国のものとよく相似たり。街路はすべて石を敷き、家屋たいてい木造、二階建てにして、北米カナダ辺りの家屋を見るがごとし。中央に一帯の江流あり。その水の清きこと、わが川にひとし。気候は意外に暑く、ロンドン市中の温度に異ならず。丘上には樹木繁生せるが、その多くは松杉族にして、樺太松に類す。市中を一過して、背面の丘上に登りて少憩せるに、往々麦田、薯圃あるを見るも、その色なお青く、わが五月初めごろの野外を望むがごとし。

繞海峰巒自作屏、曲湾尽処客舟停、那西七月夏猶浅、入眼山田麦漸青。

(海をめぐる峰々はおのずから屏のごとく、湾の曲折した奥に旅客を乗せた軽舟を(とど)む。(ノルウェー)の西部は七月の夏の気候にしてもなお浅く、眼に入る山や田の麦はようやく青さをみせている。)

 午後六時半、同港を抜錨す。風軽く波静かに、群島海をめぐりて、天然の湖形をなす。ときに、身は琵琶湖上にあるがごときの思いをなす。両岸に漁家点在するを見る。木壁を塗るに、あるいは白色ペンキ、あるいは赤色ペンキを用い、白赤相映じて大いに人目を引く。夜十時に至り、西北の天際遠く晴れ、夕日波上に映射し、上下に太陽を見るは実に奇観なり。ときに、水中に一道の光芒を浮かべて、眼眸に映じ来たるところ、その美妙ほとんど言語に絶す。かくして十時半、太陽地平線下に入る。その没する所は正北と西北隅との中間なり。日没後十二時に至るも、西北はその明らかなること白昼のごとく、東南やや蒼然たるを見る。しかして水天相接する所は余光なお赤し。夜半灯光を用いずして、大小の文字ことごとく弁ずべし。昼間の気候は、船中にありてはわが四月ごろのごとく、陸上にては六月ごろのごとし。しかして夜間は北風冷を送り来たり、三、四月の交のごとし。

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