42話 第五、北極海観光日記 四二、不夜城を継続す
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二十九日、晴れ。午前二時、号砲を放ちて出航し、ようやく帰程に上る。十時ボスコップ湾に入る。船客またみな上陸す。人家数戸あるのみ。その前後の丘陵は松林数町連なり、野草繁生し、夏花の愛すべきものありといえども、丘頂に至ればただ巌石あるのみ。しかして、遠近の諸山は残雪なおうずたかし。いたるところ石磐を採出す。この日、風なくして暑さひどし。ときに正午太陽の位置を見るに、わが冬日の太陽よりも低きを覚ゆ。午後二時出港。風ようやく生じ、冷気ようやく加わる。三時少雨来たるも、たちまちにしてやむ。英国出船以来雨を見るは、今日をはじめとす。一隻の帆船に会す。両岸の風光は連日の観と異なることなし。当夜十時半より、太陽は雲と山との間に隠れて見ることを得ざりしも、夜半なお白昼のごとし。
八月三十日(日曜)、晴れ。西北の風強きために寒冷を覚ゆ。正午十二時、ジゲルミューレンに着岸す。寒村なり。ここに、その海抜一千四十八尺の岩山聳立す。満身汗をしぼり、石径を攀ずること二マイルにして、頂上に達す。道すこぶる険悪なり。山上の風光はノルウェー第一と称し、自然の大画幅に対するの観あり。実に天地の一大パノラマなり。四面の連山はみな奇巌骨立、幾層なるを知らず。その岩陰は、ことごとく残雪をもって封鎖せらる。しかして遠山の雲煙の間に隠見するところ、さらに趣を添う。かつ、渓谷の間は海水縦横に湾入す。これをフィヨルドと称す。これに浜したる地は草木茂生するも、山腹はすべて岩石のみ。
奇巌骨立幾峰峰、七月猶看残雪封、歩到渓頭草如染渓頭草如染」はママ]、春風路上対三冬。
(すぐれてめずらしい岩がむき出しに立つ峰々が連なり、七月であるのになお残雪にとじこめられている。徒歩で谷のあたりに至れば草にいろどられ、春のごとき風の吹く路上は冬の三カ月にあたる。)
その景の雄壮なるは、はるかにスイスをしのぐの勢いあり。絶頂に茶店一戸あり。また、ドイツ皇帝登臨の記念碑あり。帰路、野花を折りて船に移る。午後六時、新月を望みたるも光気薄し。これ、夕日の高く懸かりたるためなり。昨日以来南進せる結果、夜十時半、太陽すでに地平線下に入る。しかれども、夜半なお灯を要せず、不夜城を継続す。