南半球五万哩

44話 第六、欧州大陸紀行 四四、ノルウェー内地行

1,043字 約2分 2011年10月25日 公開

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 明治四十四年八月二日、北極海観光船を辞して、ノルウェーのベルゲン市に上陸し、ホテル・メトロポールに入宿す。市街は山水を襟帯して、風光すこぶる明媚なり。終日市内を遊覧す。ノルウェーの石造煉瓦造りは、ここに来たりてはじめて見る。壮大の寺院および博物館あり、また公園の幽雅なるあり。夕六時、少雨来たる。

 三日、晴れ。午前八時ベルゲンを発して、首府クリスチャニアに向かう。汽車ようやく渓流にそいて山間に入る。岸頭に多少の麦田あり、その色黄を帯ぶ。往々ロシア式の木造を見る。これ農家なり。そのほかは森林のみ。しかして山岳はみな巌石より成り、峰頂に至れば一株の樹なく、一根の草なく、ただ残雪を見るのみ。車窓よりこれを望むに、渓流のあるいは走りて川となり、あるいはたたえて湖となり、風光実に秀絶なり。ようやく上り窮まりて絶頂すなわち分水嶺に達する前後は、トンネルまたは雪よけ小屋の中のみを通過するも、水にそいたる一方は、雪屋に窓を開き、眺望の妨げとならざるように注意を施せり。およそ数十マイルの間は、岩石と残雪と湖水のみを見る。その風光は、わが耶馬渓のごとき小規模のものにあらず。スイスの山水も、雄大の点においては三舎を避くる勢いなり。

那渓一路漸崔嵬、仰見半空残雪堆、登到水青山白処、風光自圧瑞西来。

(ノルウェー)の谷ぞいの一路はしだいに岩石の険しさを増し、仰ぎみれば空のなかばには残雪がつもる。登れば水青く山の白雪のあるところに至れば、その風光はスイスを圧倒するものがある。)

 すでに分水嶺を一過し、下ること数里にして、両岸森林の鬱々蒼々たる所に出ず。松檜の類最も多し。これみな人工的植林なり。その前後に渓流の湖をなすものいくたあるを知らず。

汽笛声中度雪岑、鉄車傍水入岩陰、渓頭百里那東路、不見行人只見林。

(汽笛の音の響くうちに雪の峰をすぎ、汽車は川流にそって走り岩陰に入った。谷のほとり百里ほどは(ノルウェー)の東の路、行く人の姿は見えず、ただ林をみるのみである。)

 嶺頭に近き所に旅館あるは、避暑客を迎うるためなり。午後四時後はようやく渓山を出でて、原野に入る。多少の林丘あるも、概して麦田なり。川上には無数の材木のただよいおれるを見る。これ、いわゆるクダナガシなり。諸川の流下すること緩慢にして、渓流といえども水声を聞かざるは、わが国と大いに異なるを覚ゆ。夜十時後クリスチャニア市に着し、公園に接したる所に旅館を定む。この日、行程三百六マイルに達す。当夕、炎熱はなはだしかりしが、夜半に至り雷鳴あり、驟雨来たる。

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