南半球五万哩

52話 第七、南米行大西洋横断日記 五二、フランス寄港

675字 約1分 2011年10月25日 公開

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 明治四十四年八月二十七日、午後五時、オルコマ号に駕して、南米行の長途に就く。同号は一万一千五百四十六トンの巨船なり。船内に昇降機ありて、人をして階段によらざるも、上下し得る設備あり。上等船客百四、五十名、中等下等を合すれば約千名を算す。ときに暮雨蕭々として至る。

阜頭風冷覚秋生、暮雨蕭蕭送我行、仰望天涯南米遠、不知何日到遼城。

(阜頭の風は冷たく、秋の来たるを覚え、夕方の雨はものさびしくふりそそいで私の出発を送ってくれる。仰いで天の果てを望めば南米は遠く、何日をへて遼城(リオデジャネイロ)に到達するかわからないのだ。)

 遼城とはブラジル首府リオデジャネイロをいう。

 二十八日、曇り。朝気冷ややかなり。午前中は、英国南端デボンシャー州の南岸に沿いて東走す。夜に入りて、フランス西岸の灯台数光に接見す。その光力の強きものは、雷時の電光を望むがごとし。ときどき汽船に逢遇す。

 二十九日、晴れ。気候やや暑く、正午室内七十四度にのぼる。無数の漁舟、帆を掛けて走るを見る。午後五時、フランス港ラ・ロシェルに入る。上陸し郵便を投じて帰船す。別に見るべきものなし。当夕、徹夜して荷物を積み込む。その多くはブドウ酒なり。ここよりボルドーまで五十マイルあり。

一痕新月印秋濤、浦上清風払鬱陶、英酒濁醪吾已飽、仏南今夜酔葡萄。

(一片の新月は秋の波に映じて、海辺の地に吹く清らかな風は気の重さを払ってくれる。英国のにごり酒にはわれすでにあきて、(フランス)の南部の今夜は葡萄(ブドウ)酒に酔うのである。)

 三十日、晴れ。午後三時出港。風あれども強からず、波あれども高からず、満船清涼、半輪の明月高く西天にかかる。

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