南半球五万哩

85話 第一〇、太平洋帰航日記(付世界周遊再見) 八五、ハワイ航路所見

1,485字 約3分 2011年10月25日 公開

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 明治四十四年十二月十六日、メキシコ・マンサニヨ港を出航し、六千マイル以上の太平洋を横断して、帰行の途に就く。

 十二月十七日(日曜)、晴れ。暁来陸影全く眼中に入らず、茫々たる太平洋上、ただちにハワイを指して進行す。

 十八日、晴れ。太平洋の所見を賦す。

詩嚢酒瓮客中、探句檣頭酔欲題、米北米南雲断続、道黄道赤暑高低、波為堆処鯨能躍、船不到辺禽自栖、茫渺太平洋上路、家郷遠在夕陽西。

(詩を入れる袋と酒のかめを旅中たずさえて、句を求めて帆柱に酔いしれつつ詩題にしようとした。(アメリカ)の南北ともに雲が断続し、黄道赤道に暑熱は高低する。波の高いところに鯨がおどりあがり、船の到達できぬあたりに鳥は住む。ひろびろと広がる太平洋上の航路に、家郷は遠く夕日の西のかなたにあるのだ。)

 十九日、曇り。北風冷を送り来たり、朝気颯々としてにわかに秋に入るの感あり。今朝験温するに、室内七十三度、海水七十四度なり。夜来波ようやく高く、船少しく揺動す。

 二十日、曇り。北風波を起こし、波頭白を冠す。雲煙四涯をとざして、一望濛々たり。

 二十一日、曇り。二個の海鵝の風濤をわたり、船を追いて飛するのほか、終日目に触るるものなし。船中徒然のあまり、シナ革命の一絶を賦して、同乗梁振華氏に贈る。

霹靂夜来天地轟、黄竜失墜満廷驚、暁窓傾耳聞人語、四百余州革命声。

(はげしくなる雷が夜どおし天地にとどろき、皇帝は失墜し清朝は驚愕す。あかつきの窓に耳をかたむけて人の話を聞けば、四百余州に革命の声があがっているとのことだ。)

 二十二日、曇り。夜来波さらに高く、甲板上に打ち上ぐること数回、船また横動し船病者を生ず。暁天雨を帯び、ときどき細雨来たる。

 二十三日、晴雨不定。たちまち日光を漏らすかと思えば、たちまち凄雨蕭々として至るあり。今朝、船まさしくメキシコとハワイとの中点にあり。

 十二月二十四日(日曜)、晴れ。ただし二、三回の少雨あり。午前、船中にて消火の演習を行う。風位東方に変じ、船を進むるによし。温度のぼりて七十六、七度に達す。波あれども高からず。ただ太平洋の中心たるをもって、その幅すこぶる大なり。暮天新月を望む。涼また船に満つ。

夕照入波波亦紅、望中得句嘯長風、南溟今夜涼如水、万里檣頭月一弓。

(夕日は波に照り映えて、波もまた紅く、一望のうちに詩句を得て、かなたから吹きよせる風にうそぶく。南の果ての今夜の涼しさは水の冷ややかさに似て、万里の海上に弓のごとき月が帆柱のかなたにかかっている。)

 二十五日、晴れ。当日はクリスマスなりとて、食堂に装飾を施す。午後、汽船に逢う。米国商船なり。晩食にはクリスマス・ディナーあり。食後、涼を納むる。

熱帯風無熱、太平洋不平、満船載涼去、蹴浪向檀洲。

(熱帯の風には熱はなく、太平洋とはいえ平らかではない。船いっぱいに涼をのせてゆき、浪をけたてて檀州〈ホノルル港〉に向かうのである。)

 ハワイ・ホノルル港をシナ語にて檀香山という。よって、詩中に檀州の語を用う。

 二十六日、朝雨のち晴れ。夜に入りて一天雲なく、ただ一鉤の涼月を望むのみ。

 二十七日、晴れ。暑気にわかに加わり、盛夏のごとし。東風船を送ること連日に同じ。

日夜船窓望布哇、水天連処浪無涯、家書未到年将暮、好託東風伝客懐。

(日夜船窓から布哇(ハワイ)を望めば、海と空との連なるところに浪は果てしなく、家郷からの手紙もまだ届かぬうちに、年ははや暮れようとする。ならばよし、東風に託して旅人の感懐を伝えよう。)

 二十八日、晴れ。午後驟雨あり、晩に雷鳴を聞く。終日、船中餅つきをなす。元日の近づけるによる。当夜、ハワイ島の灯台を望む。

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