東洋学人を懐う

8話 双手を取られたより惜しく思った

406字 約1分 2018年9月6日 公開

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 それから小野君は銀行の利を説き、銀行事業は人の金で人を利し、また自己も利益を得る方法であるといってその設立を主唱し、ついに我輩等が賛成して、壬午銀行(じんごぎんこう)というものを設立した。然(しか)るにこれも間もなく失敗して終った。また小野君が主となって、石炭は文明の原動力であるから石炭を供給して文明を助け、反面に巨利を得るという趣旨から、炭鉱事業にも手を出してみたが、これも着々失敗に終ったのである。

 なにぶん一発の弾丸で二羽の鳥を撃とうとしたのであるから、一羽も取れずに終ったのである。かくの如く小野君は、その涵養(かんよう)せる新智識と独得の才気を以て各種の事業を企て、大部分失敗に終ったが、この新たなる経験を利用して将来大いに為すべき望みを持ちながら、不幸にも夭折(ようせつ)してしまった。我輩は人才尠(すく)なき時代の事とて、ことに国家のために非常に惜しく思った。また大切な友人として、且(か)つ学校の恩人として、我輩は両腕を取られたよりも惜しく思ったのである。

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