6話 第一、周遊の目的および太平洋紀行の部 第六、無形上の文明
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政教子曰く、わが国有形上の文明は、今日すでに欧米諸国の模範を取り、ほとんど大成すといって可なり。しかして、無形上の文明すなわち余がいわゆる精神上の文明は、いまだ全く着手せざるがごとし。そのうち着手せるものは、ただ大・中・小学校の教育のみ。これ、他なし。無形上の文明は、有形上の文明のごとくたやすく模擬することあたわず、かつその進歩は永き歳月を要するをもって、一両年間にその成功を見ること難ければなり。しかれども、もしわが国をして西洋に対立抗敵せしめんと欲するときは、必ず無形上の文明を振起するを要す。そのことたるや、難中の至難なりといえども、また要中の至要なり。ゆえに、これを至難なりとして決して放棄すべからず。わが邦人も数年来ひとり外形上の文明を奨励して今日に至り、初めてわが無形上の文明は、はるかに欧米の下にあることを発見したるがごとし。商業に従事するものは、わが商人の小利小欲に汲々として大利を忘れ、公衆永久の信用を重んぜざるの弊あるを憂え、学術に従事するものは、わが学生の小成に安んじて耐忍、進取の気風なきを憂え、政治社会に立つものは、わが人民の議論つねに軽躁に走りて遠大の見識なきを憂え、会社事業をとるものは、わが人民の結合力に乏しきを憂う。これみな、精神上の文明いまだ欧米に及ばざるによる。しかして、世間いまだこの精神上の文明を任じて、わが国をして西洋人同等の地位に進めしめんとするものあるを聞かず。これ、余がひとり惑うところにして、自ら進みてその任に当たらんと欲するゆえんなり。